ミーンミーンミーン…



「あっつー!!!!」



放課後の教室でそう叫んだのは、俺の彼女名字名前。名前は額にうっすら汗を浮かべ頬は火照り。季節もいよいよ本番の夏を迎えていた。



「ゆーうーとー、あーつーいー」
「はいはい、分かったから。もう暑いって言わないで」
「だってー、あーつーいー」
「余計暑くなるでしょ!」
「じゃあ、さーむーいー」
「それもそれで可笑しくなりそう」



汗が滴るこのムシムシした状態で、寒い寒いと連呼されればそれはそれで頭がバグってしまいそうだ。それでも、炎天下の中自転車を漕いで帰るよりはこのムシムシ教室の方が何倍もマシなのだけれども。

今日の部活はミーティングだけの日なのだが、名前がどうしても暑すぎて今帰りたくないというので、こうして二人で教室に残っていた。



「あれ、髪の毛切った?」
「今頃ー?気づくのおそっ」
「え、いつ切った?」



少しだけ短くなったような気がした名前の髪の毛。毎日見てはいるけど、いちいち髪の長さなんて気にしていなかったのが本音だ。



「…昨日」
「いや、ちかっ。全然気づくの遅くないじゃん!」
「遅いよ!友達はもっと早く気づいたもんねっ!」
「えぇー」



男の俺にしては気づくのが早いと、褒めてほしいところだったが当の本人はそれでは満足しないようだった。すっかりむくれてしまった名前は俺に背を向けて椅子に座る。もー。そんなむくれないでよー。口からは発しなかったが心でつぶやく。



「拗ねないで―、機嫌なおしてー」



むくれてしまった名前の後ろに立ち、後ろから抱きしめる。ちょうど名前の肩に俺の顎がちょんと乗っかる。顔のすぐ横には首があるのでふっと息を吹きかけるとくすぐったそうに笑う。これでいつも、機嫌が悪いことを忘れて笑顔になってくれる。



「ちょっと勇人あっつい!」
「いつまでも機嫌悪い子にはお仕置きー、ふっ」
「ひゃあ!ちょ、く、くすぐったい!」
「お仕置きだから我慢しないとダメだよ」
「ひゃあ、ちょ、やめてぇ!あははっ!」



暑い暑いと言いながらも一向に俺の腕を解こうとしない。そして、横顔からでも伝わるこの名前の緩みきった顔。こんな蒸し暑い教室の中で抱き合っていると暑いのは本当の事だけど、それでもこの状態を許してくれる名前に心底感謝して。今日も例に漏れなく、すっかり機嫌をなおしてくれた名前は自分が怒っていたことなど忘れているようだった。



「あ、そろそろ夕日沈みかけてきたね。」
「もう、外出ても暑くないんじゃない?」
「いや、暑いには暑いでしょ。」
「ま、暗くなる前に帰らなきゃね。」
「そうだね、帰ろっか勇人」
「はーい。」



少し名残惜しいけど体を離して、荷物を持って教室を出ようと歩みを進めようとした時、後ろからシャツの裾を引っ張る控えめな力に気付いて振り返る。



「…ん」



短い言葉と共に差し出された手のひら。あんなに暑い暑いと言っていてもどこか繋がりを欲しがる名前の姿がどうにも可愛らしくて。先程の名前の事を言えないくらいに、俺の顔はきっと緩みきっていたに違いない。



手をつないで帰ろうか



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