小説 | ナノ


▽ 夢


こちらは、尊敬してやまない碧さんのキャラクター羽流くんを貸してもらって書かせてもらったSSになります。
碧さんのツイッターアカウントはこちら


旅人は、ある日、何かを埋めている老人に会いました。
「何を埋めているんですか?」
たずねると、老人は誇らしげに言いました。
「夢を埋めているのさ。もうかれこれ数十年、俺は夢を埋めて旅しているんだ」
「夢?」
「すごく甘くておいしい夢さ。集まった皆が笑顔になるんだ」
旅人は「そうですか」と笑います。
「素敵な夢ですね」

老人と別れてしばらく行くと、水をやっている男に会いました。
「何に水をやっているんですか?」
たずねると、男は誇らしげに言いました。
「夢に水をやっているのさ。もうかれこれ十数年、俺は夢に水をやって旅しているんだ」
「夢?」
「皆で分けあえる夢さ。もらうほうも贈るほうも、皆笑顔になるんだ」
旅人は「そうですか」と笑います。
「素敵な夢ですね」

男と別れてしばらく行くと、何かを採っている若者に会いました。
「何を採っているんですか?」
たずねると、若者は誇らしげに言いました。
「夢をとっているのさ。ここに引っ越した時からずっと、夢を採って暮らしているんだ」
「夢?」
「すごいお金に代わる夢さ。これがあれば、俺は一生遊んで暮らせるんだ」
「他の皆はどうしたんですか?」
「柵で囲んだから近づけないよ」
「皆に贈ったりはしないんですか?」
「そうしたら俺の取り分が減るじゃないか」
旅人はそれ以上何も言いませんでした。


若者と別れてしばらくいくと、泣いている少女に会いました。
「どうして泣いているのですか?」
たずねると、少女は震えた声で言いました。
「食べ物がなくて困ってるの。おいしい実がなる木があったのに、柵があって近づけないの」
少女はそういって、はらはらと涙を落とします。旅人はしばらく少女を見つめていましたが、やがておもむろにスケッチブックを取り出しました。ザカザカと筆を走らせる音がします。
「何を描いてるの?」
たずねると、旅人は誇らしげに言いました。
「夢を描いているんです」
やがて少年は筆を置くと、その絵を少女に差し出しました。
「どうぞ」
「私に?」
それは、木を育てる父子孫の絵でした。
「ええ」
「ありがとう」
少女は涙目のままその絵をじっと見つめて、それからゆっくり微笑みました。
「素敵な夢だね」




prev / next

[ novel top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -