泣き虫伊達男


「っうぇ…ぐす…っ」

いつもみたいに人が少ない隅っこで、体育座りしてこっそり泣いてた

「あ、見付けた。今日はここにいたのか」

そして、いつも、コイツが来るのを待っている。遅いよ…!!

「どうしたー?いつも通り獄寺君かな?」

聞かなくても分かってるくせに。その通りだよ。いつも通り獄寺のアホだよ

「はいはい泣かない泣かない。いいこいいこ」

そんなことで泣き止むランボさんじゃない!!
俺っちが泣き止む魔法はひとつだけ

こうやって、うそ泣きでもずっとしてればツナはくれるはずだ

「んー…仕方無いなぁ…」

ほら。チラって、目線だけ上げる

「顔ごと上げろよ」

「は?」

いつもならその目線の先にばアレ゙があるはずなのに、差し出されることもなく呆けた顔を上げれば

「……………はぁ?」

更に呆けた返事をした

「いやぁさっき疲れててさ。最後の1個食べちゃったんだよね。だから、お裾分け。これで我慢しろよ?」

そうやっていたずらっ子な笑顔で、口許に指を当てていた

その、表情や仕草や…キスの、感覚とか



「じゃあ来月からは今までとはちょっと違う仕事で頑張ってみようか。情報収集は…あまり気は進まないけど、やっぱり女性を相手にすると得やすいかな」

数年経った今でも覚えてる

「まぁ…何だかんだランボも可愛くないイタリア男に育ったし。案外こういう方が向いてるかもな?」

あの時以来、そんなことはされないし。しばらく嘘泣きしてみたけど魔法だったブドウの飴を貰っただけで

その内、飴以外を期待する自分がいて。何だか恥ずかしくなって、いたたまれなくなって、悲しくなって。その内、嘘泣きなんてやめた

「とりあえず。何か質問あるかな?あんま俺は口説くの得意じゃないけど多少のアドバイスはできると思うよ」

今じゃ、お互いに仕事だなんだでふたりで会えるときなんて今日みたいな報告だけで。頻度は大体月イチ

「あの時…」

だから、意を決して口を開いてしまった。いや、むしろずっと聞きたかったのだ。毎月毎月、ヤキモキしながら

「あの時、何で俺にキスしたんですか」

思えば気まぐれでしか無かったんだと思う

「あぁー………何と無く…かな?」

ほら。俺がこれだけ引っ張ってきたあの日はあなたの気まぐれだったんだ

「ランボはブドウの飴あげるまで泣き止まないからさ。必死に考えた結果、あれしかなかったんだよね」

そしたら、やっぱり。恥ずかしくなって、いたたまれなくなって、悲しくなって

「…ったのに…」

「ん?」

「ファーストキスだったのに!!ファーストキスは綺麗なお姉さんって決めてたのに!!」

意味分からないことを口走った

いや、まぁ、決めてはいたんだけど

別に。嫌じゃなかったんだ。嫌だったら今、こんなこと聞かない

「うー…!!」

そして。相変わらず泣き出す俺。泣き虫が直った訳じゃない。泣いてなかった訳じゃない

別に、ブドウの飴がほしい訳じゃないのに涙が止まらない

それに、こんなんじゃ、キスされたのが嫌だったみたいだ。違う、違う

「あれから…っ、ツナ、き…きすっ…してくれないし…っ」

そして混乱しすぎて素直に思っていたことを言ってしまった

女々しいと思われるだろうか。気持ち悪いと思われるだろうか。もう逃げ出してしまいたい。でも、涙は止まらないのに足は止まったままで

「……………ランボ」

呼ばれたから、ぐっしゃぐしゃな顔だけど手をほどいて上げた

「―――――…」

そしたら。懐かしい感触

「あ、泣き止んだ」

ブドウの味はしなかったけど

「これから会議だから。泣き顔のまま出るわけにはいかないだろ?顔洗ってこい」

「は…は、い…」

涙は。確かに止まった。びっくりして。足も止まったままだけど

「顔。洗ってこい」

その一声で、はっ、として何とか動き出せた

そして。出る直前に

「………泣き虫直ってないことなんて分かってるから。泣いたら遠慮なくおいで。止めてやるから」

そんなことを笑顔で言われて、それは、つまり、そういうこと、だと、思っていいのか?と思考を巡らせ

目が合って。見てられなくて。すぐさま出ていった

顔も洗って少しはましな顔で会議室に向かい。んでもって会議室で会わないわけが無くて

「10代目。本日の資料です」

でももうふたりきりではなくて

それでもさっきみたいに目が合ったら

『内緒』

そう口パクしながら、数年前のように口元に指を当てていた。資料を眺めながら考え事の様に自然に指を当てて、平然と公言してきた

「…………っ!!」

女を口説くのは得意じゃない…?
そんなん嘘だ

あの笑顔で、そして流し目で。あんな色気でみんなの前で然り気無くふたりだけの内緒宣言されて

落ちない女が。いない訳が無い

会議になんか集中できなくて。そしたら獄寺氏に怒られて

怒られて怖いとかムカつくとか悲しいとか、それもあるんだけど今日は恥ずかしさも相まって


泣きそうだ





あれから。どっかで隠れて泣いてるとまた見付けてくれるようになった

昔みたいに、迎えに来ないと行かない、とかじゃなくなったから、探しになんてこなくなったのに。どこにいたってことごとく見付けてくる

そして。内緒でキスをしてくれる。優しいキス

ブドウ味だったり。美味しいご飯だったり。甘いケーキだったり。たまにはお酒の味だったり

泣き虫を直さなきゃ、って思うけれど。どこか、直したくない自分がいて

「よしよし、泣き虫ランボ泣き止ーめ」

だって。これは魔法だから。只の魔法だから

「ねぇ、ボンゴレ」

「ん?」

「もし……俺の泣き虫が直ったら…どうしますか??」

少し考え込むあなた。いつの間にか近くなった身長は、あなたの顔がよく見える

「んー…そうだなぁ…ランボの泣き虫が直るのは想像つかないけど、ちょっと困るかもなぁ」

笑って上げてくれた顔は数年前までよく見ていた顔

「お前とキスする理由が無くなる」

迷惑かけてばかりだった俺によく見せてくれた、少し困ったようなはにかんだ笑顔

「じゃあ………俺から、キスしていいですか?」

俺が泣き止むためにあなたからかけてくれる魔法じゃなくて。俺からあなたに送る只のキス

少し、泣きそうで、眉を下げながら、我ながら勇気を持ったと思う

「…言うようになったじゃん。この伊達男。いいよ」

ちょっとだけ顔が赤くなったあなた。顔を近付けて、あと数センチ。そんな時に

「タンマ。やっぱ駄目」

まさかの。お預け

「何で!?ここまで来て!?そんなの酷い!!」

ついつい口調が昔のように戻る

「する、するよ!?いいよって言ったじゃん!!」

何とかキスしようと迫るけどとにかく抵抗してくる

「ストップ!!いや、マジで!!つか、今が駄目!!お前の為にも!!」

「やだ!!する!!絶対する!!」

とにかく意固地なあなた

それでも諦めなかった

そこに

「失礼致します、10代目。スケジュールの調整をしたいのですが」

俺達の動きを止める。奴が現れた

「今、お時間……よろしいです…か…」

この瞬間。俺は全てを理解した。最も、もはや手遅れだけれど

「すみません、今じゃありませんね。このしょうもない部下ちょっと絞めてくるんで30分後くらいにまた伺います」

とてもとても素敵な笑顔

そして襟首を掴まれ強制退場させられる俺

出る直前に見たあなたはとても哀れんだ目をしていた


こってり絞られ、泣かないわけがなく、ひとり部屋で泣き寝入りをしていた

〜♪

けど、そこに、魔法がかかる音が聞こえた

『後でまた部屋においで。涙止めてやるから。そして今度こそはいいよ』

魔法が効くのは今じゃないはずなのに。既に効いた魔法

はっきり言って立場の弱い俺。この先何度もこんなことがあるに違いない

それでも、きっと大丈夫

だって。もう。魔法だけじゃないから


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あとがき

途中で書いててワケわからなくなってきた←
最初に書こうと思ってたのと大分方向変わりました

本当は内緒にしてる意味を全く考えないでどこでもキスしたいとか言い出したりとか

普通にそこらへんにみんないるのにギリギリ死角になってるとこでちゅうしあったりとか

そんなん書く予定でした。全く違うじゃないか!!どうしてこうなった!!(ばんっ)

でもみんなの前で流し目で口元に指を当てて内緒って言うつなくん書けたからいいや

2013.03.30



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