アットホーム
一定の目的を持って歩いてるにも関わらず、夜を過ごす場所は安定しない
今の俺に帰る場所は無い
昔の俺には帰る場所があった
しかし、その場所を無くしたのは他ならぬ俺だ
かつてのファミリーの、本来帰る場所へ尋ね。贖罪の旅を続けてきた
怒鳴る者もいれば、マフィアになった時点で覚悟していたと涙を流す者もいた
本人がいない墓場を共に作ったりもした
中には、帰る場所が元々無い者もいた。彼等にその場所を与えようと連れてきたが
「何とも無責任なことをしたな…」
墓場だけでも作った。確かに、この世にいた証として
そんなことを繰り返しながら今日もひたすら歩く
ぼちぼち今夜の宿を決めようとしていた時、肩に何かが止まった。それは鳥だったが
「何を持っているんだ?」
俺に渡すように1通の手紙を差し出した。誰かの気まぐれかと思い開けてみたらそれは確かに俺に当てられた手紙だった
さすがアルコバレーノ。俺の居場所も分かると言う訳か。わざわざ飛行機のチケット付きだ
つまりは。絶対来いと言うことである
「………空港の近くまで向かうか」
何かあったのかもしれない。何かがあってからでは遅い
今夜の寝床は。飛行機だ
指定場所はボンゴレの家だが着いた頃にはすっかり遅くなってしまった
さて。普通に入っていいものだろうか
「いいからとっとと外に行け」
「何でだよ!?まだ着いてないじゃん!!外で待ってたら気使わせるだろ!?」
…………どうやらインターホンを押した方がいいらしい
「ほら、来たじゃねぇか」
「まっ、まだ誰か分かんないだろ!!」
軽快な電子音の後に再び聞こえる複数の高い声。会話からも俺が来るのを待っていたのが分かる。やはり、何か緊急事態があったのかもしれない
「はーい……っ、ランチアさん!!」
開けられたドアからは、予想外にも笑顔を浮かべるボンゴレが出てきた
「いらっしゃい!!こんな遠くまでお疲れ様です。さ、入ってください。寒かったですよね?」
「ころりと態度変えやがって。こいつな、お前が来るのをそわそわしながら待ってたんだぜ」
「う、うるさいな!!」
…特に何も緊急事態は無さそうだな。いつもの、どこか安心できるのんびりとした空気がある
「あらっ!!ランチア君いらっしゃい!!お疲れ様!!さぁさぁ座ってちょうだい。寒かったでしょう?」
「かたじけない」
さすが親子と言うべきか。同じ笑顔なだけでなく同じ言葉で歓迎した
「あっ!!チア兄だ!!いらっしゃーい!!」
「ランボさんと遊べー!!」
来る度に慕ってきてくれる子供達。下の子等と遊んでいると昔のことも思い出す
「お料理、沢山作ったから沢山食べてちょうだいね!!イタリア料理頑張ったんだけれど、せっかくだから和食も用意したの」
次々と並べられていく色とりどりの料理
どこか懐かしい味、安心する味。料理にもきっと作り手の性格が現れる
「これはランボさんのっ!!」
「○△□〜!!」
それを感じ取ってか毎回おかずの取り合いをしている。その喧嘩を止めるのはボンゴレの役目だ
ここの家族は本当に仲がいい
「はーい、それじゃあみんな準備してー!!」
ある程度食べ終わりのんびりし始めた頃に、何かの合図がなされた。準備…?
「実は。これが今日ランチアさんを呼び出した理由です」
立ち上がってどこかへ行き、数分も経たない内に戻ってきた彼等が手にしていたものはケーキ
「誕生日、おめでとうございます」
少し照れたような笑顔。何だか、こちらも照れくさくなる
「あ、あぁ……礼を言う」
昔にもこんなことをされた。自分がやったりもした。しかしもうそんな出来事から暫く離れていて。素直に礼すら言えない
「はい、ランチア君には一番大きいの」
ぶっきらぼうになってしまう俺に慣れたのか次々と取り分けられていくケーキ。子供達はケーキを食べれる嬉しさからか忙しなく次々に頬張る
苦笑いしていたボンゴレと目が合い。何故かその次はお互いに微笑みながら、一口目を頬張る。勿論、その味は絶品だった
「すまない、服だけでなく寝床も借りてしまい」
「全然!!気にしないでください。ランチアさんにはどっちも少し小さいかもしれませんが…」
それこそ気にすることは無いがな。ここ最近の中では一番贅沢な寝床だ
「俺達が寝るにはまだ少し早いですよね。寒いですがよかったら毛布にくるまって星でも見ませんか?空気が澄んでてとても綺麗ですよ」
「いい案だ。何か温かい飲み物でも入れるか?」
立ち上がった俺を制止して、少し重みのある毛布をそのままかけてきた
「ランチアさんお客さんなんですから先に見ててください!!俺が取ってきます。と言っても入れるのは母さんですが…」
それもそうか。俺が入れるつもりでいたが勝手を知るわけでもないし部外者の俺が動くわけにはいかない
「なら、お言葉に甘えるとしよう」
俺が食い下がったことで満足したようだ。笑顔を見せ下へと降りていく。そこからは賑やかな声が聞こえる
「おいランチア」
「ん?あぁ、アルコバレーノか。この度は手数かけてすまない」
日本へ来るように促したのもチケットを渡してくれたのもアルコバレーノの使いだった。俺のところまで届けるのに日数もかかっただろう
「そんなことは何も手数じゃないぞ。ただお前がそういうなら次は高くつけるか」
「それはそれは…お手柔らかに」
「それよりお前らまだしばらく起きてるんだろ。俺はもう寝たいが煩そうだからな。ビアンキのとこにでも行くぞ」
これこそ高くつくぞ、とでも言いたげな不適な笑み。苦笑いを返してしまったが、今回は客人だからと見逃してくれたようだ。見逃す…?これはなんと言えばいいのか…
そうこう考えてるうちにアルコバレーノは出ていき、ボンゴレが帰ってきた。手にはポットと3つのカップ
「お待たせしました。あれ?リボーンは?」
「アルコバレーノなら他のところで寝ると先程出ていったぞ」
「そうですか。他のところに行くなんて珍しいこともあるんですね。後が怖いや」
ボンゴレも先程の俺みたいに苦笑いを浮かべていた。その手元からはとても甘い香りがただよう
「ホットココアで大丈夫ですか?母さんがいれるの美味しいんですよ」
今日の料理やケーキを思い出せばそれは容易に想像できる
「ありがとう」
ケーキの時とは違い次は素直に礼を言えた。口にした温かく甘いココアで更にリラックスする
「確かに空が綺麗だな。ボンゴレさえよければ少し部屋を暗くしないか?明かりが少ない方が見える範囲がぐっと増える」
「いいですよ!!懐中電灯もありますし。じゃあ電気消しますね」
カップに気を付けながら毛布にくるまり空を見上げる
「フゥ太に少し、星座を教えてもらったんです」
色んな話を交えながら次々と星をなぞっていく。結構見ていたらしい。1日じゃこんなにすらすらと言えるようにはならないだろう
「こうやって誰かと空を眺めるのも久し振りだ…俺からも少し教えよう」
ボンゴレがしてくれたように星をなぞりながら、まつわる話をしていった。しかし、ボンゴレの表情が先程と違い少し曇っている。何か…まずいことをしただろうか…
「いつも、ひとりで空を見ているんですか?」
「ん?あぁ…そうだな」
表情が曇っていた理由が分かった。やはりこういう話はすべきでなかったか…
寝床は安定していないから、たまに野宿もする。寝そべって広い空を見て、沢山の星を見て、それがあまりにも当たり前になっていた
「今日、ランチアさんは何回か安心したような顔してたんです。楽しんでくれたのは勿論嬉しいのですが…何て言うか…」
「お前が気にするようなことは何も無い」
中身が少なくなっていたカップにココアを注ぎ足す。湯気が上がる。変わらない温かさ。まるで、この家のように。ボンゴレのように
「まだ、旅は続けるんですか?」
「ああ。まだまだ終わらない。それだけ、俺にはファミリーがいたんだ。辛くないと言えば嘘になるが、同時に幸せだったと実感もできる」
今度はボンゴレが俺のカップに注ぎ足してくれた。何か言いたげだ
「俺に…っ、俺にあなたが抱えてるものを少しでも分けてくれませんか!?あなたの辛さを、重さを、少しでも…減らしたいんです…」
それはとても鬼気迫る表情で。本当に俺のことを思って、言ってくれたのがよく分かる。しかし、俺の答えは
「駄目だ」
一択しか無い
「っ、どうしてですか!?あなたがっ、あなただけがそんなに苦しむことなんてないのに」
眉を下げて少し泣きそうな顔をしながら、必死に訴えてくる。不謹慎ながらも。少し嬉しいものがある
「ボンゴレにはボンゴレの抱えるものがある、そういうことだ」
「っ、俺は…マフィアになる気は……無いですから」
何度聞いたか分からない台詞。例えそれが本気であっても関係無い
「抱えるものってのは何もマフィアのファミリーだけじゃない。例えば…お前の母親はマフィアではない。でも、何も抱えてないように見えるか?」
そこで、気付いたようだ
「ボンゴレ。仮にお前がマフィアにならなくても、友人は増えていくだろう。いずれ恋人ができ、子供ができ、そうやって歳を重ねるに連れ抱えるものは増えていくんだ」
悔しそうな顔をしながら、ココアを見つめている。礼を言うように、頭を撫でた
「今は少ないのかもしれない。かといって、わざわざ俺が抱えてるものを持とうとする必要は無い。いつか、抱える大事なもののために…その腕は取っておくんだ」
そして。先程発した言葉をもう一度
「辛くないと言えば嘘になる。しかし、幸せだったと実感もできる。だから、大丈夫だ」
落ち着こうとしたのか、少しずつココアを飲んだ。俺は少なくなったカップに、注ぎ足してやる
「今は…幸せですか?」
少し声が掠れてしまっている。申し訳無いことをしたな
「あぁ。こうやって、温かいココアを飲みながら綺麗な星空を見上げている。とても…優しい奴と一緒にな」
ついには泣き出してしまった。顔を隠すのに精一杯なのか、毛布がちゃんとかかってない
少しでも、感謝の気持ちを伝えたく…同じ毛布でくるまった。人の体温は安心するとよく聞く
自分も相手の体温を感じるわけだが。確かに安心する
「今、あなたには帰る場所はあるんですか?」
鼻をすすりながら、少し痛いところを聞いてくる
「それは…まぁ、無いな。俺自身が無くしてしまったのだから。別に今は無くても」
「駄目です」
先程の俺のように即答する
「あなたの抱えているものを俺には持てないのは、分かりました。でも、家にたまに帰ってこなきゃ…休まなきゃ、続けられませんよ」
赤くなってしまった目で、俺を見上げてくる
「今から、あなたは俺の家族です。ファミリーでなく、家族です。ここはあなたの家です。だから、いつでも帰ってきてください」
と、いきなり言われてそんな簡単に頷けるだろうか。それは…否だ
「帰りづらければ理由作って帰ってくればいいんです。母さんの料理が食べたいとか。フゥ太は色んな星座を教えてくれます。チビ達は楽しく遊んでくれます」
「お前は…?」
「俺は……今は、笑顔でおかえりなさいしか言えません。でも」
でも…?
「あと数年すれば、帰ってきたあなたと一緒にお酒が飲めます」
その笑顔は。とても安心できる笑顔
「それは楽しみだ。そうだな…。たまには帰ってくるか」
ここには。変わらない優しさと温もりがある。俺も少し目頭が熱くなってしまった
たまにでも、その安らぎを求めて。お前に会いに…帰ってこよう
いつか全てが終われば、気兼ね無く帰れるのかもしれない。そんな日が来るかは分からないけれど
「ココア、足しますね」
「あぁ…ありがとう」
温かな毛布と温かな飲み物と温かな体温
俺には沢山のファミリーがいたこと、今でも俺のことを考えてくれる人がいること
帰ってくる場所があること
俺がこの世に生まれたこと、彼に会えたこと
そんな沢山の幸せを噛み締めて
綺麗な星空を見上げた
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あとがき
文字数足りないランチアさんおめでとう
広がれチアツナ
2012.12.15
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