○○日


ツナは。不思議な力があると思う

俺が飛び降りようとしたときに助けてくれたからとかそんなんじゃなくてさ

「10代目!!」

決して誰にも笑顔を見せない獄寺がすっげぇなついてるとか

「つなにーいっ!!」

ちび達が皆なつく不思議な魅力とか

決して強いわけでもないし

目立つわけでもないし

でも何か目で追ってしまって

「山本、お昼だよ。屋上行こう」

話しかけられるとほっこりする

一緒にいるのが楽しい

一緒にいれるのが嬉しい

一番大好きな友達

一番大好きな親友

それだけ?友達?親友?それだけ??

じゃあ他の奴等と話してるの見るともやもやするのは何で?自分が一番の友達じゃないから?

ある日。いつになくご機嫌な獄寺がいて

「10代目と付き合えたんだ!!羨ましいだろ!?」

すっげぇ誇らしげに言ってきて。その時俺が返した言葉は

「ふーん」

だけで。そしたら獄寺はめっちゃ怒ってきて

席外してて戻ってきたツナは超宥めてて、少し照れながらはにかみながら「獄寺君と…付き合ってるんだ」って教えてくれて

やっぱり。その時も俺は

「ふーん」

としか言わなかった

何故だかその日は全然集中できなくて

部活でめっちゃ怒られても全然頭に入らなくて。何言われてるかよく分からなくて

家じゃ米を洗剤で洗いそうになると言う何ともおかしなことをしてしまった

さて、寝るか、と電気消して寝っ転がって天井眺めてたら

今日のふたりのこと思い出して

「あれ」

ぽろり、ぽろり、涙が出てきた

何でだろ。別に、あいつら男同士なのにとか思わなかった訳じゃないけど

嫌悪感とか全く無かったし

幸せなふたり見てたら俺も幸せだって。思いたいのに

じゃあ。何でこんなに涙が止まらないんだろう

ぽろり、ぽろり

ぽろり、ぽろり

とめどなく流れていく

何でこんなに胸が苦しいんだろ。何で、ツナは俺にあの笑顔を見せてくれなかったんだろ

「あぁ………そっかぁ…」

やっと分かった

きっと。これが失恋なんだ

知らなかった。恋なんてしたことなかったから知らなかったよ

これが、きっと、そうなんだ

何だ。こんなに泣いちゃうくらい。俺はツナが好きだったんだ

だから。目立つ訳じゃないのに目で追って。すごく彼がキラキラして見えて

そして。俺の中のちっさいヒーローだったんだ

俺の。初めての失恋だった


それから何年か経って

色んなことあったけど、俺は相変わらずツナの隣にはいて

獄寺だって。この数年間ある意味ずっと隣にいて

みんな身長伸びて、歳も取って、立場も職業も変わって

それでも俺達は一緒にいて

幸せなふたりを眺めるのも、自分の心がちくちくするのも慣れてたんだ

そんなある日に獄寺に呼び出されて

「今日は朝まで飲むぞ」

そんな突拍子も無いテーマを渡されて

ヤケ飲みしているのを眺めてた

「10代目が…結婚だとよ……」

それでぽつりといった言葉で今日の収集理由が分かった

「分かってたんだよ。いつか別れる日が来るなんて。俺が隣にいれる存在じゃないなんて。でもよぉ、何でこんな時なんだよ、強制終了かよ、つれぇよ、覚悟を決めさせてくれよ。付き合い始めた女がいるとすら言わなかったんだぜ」

獄寺は。ひたすら飲み続けて、ひたすら同じことを繰り返してひたすらツナの名前呼んでた

それでも。やっぱり俺は

「ふーん」

数年前と同じ答えしか出てこなかった

とりあえず。目の前にある飲み物を飲んで。飲み干しては注文して、飲み干しては注文して

判断力とかはさすがに鈍るけど、動けない訳ではない。とか過信し過ぎて。飲み過ぎて、俺等はどっちも動けなくなって

朝になったら迎えに来た小僧に蹴り飛ばされて、帰ったらツナに超怒られて、仕事にならない俺達はその日1日ずっと寝ていた

数年前は当日だけ集中できなかったけど。今回はずーっとぼーっとしてる

さすがに大人になってる分、ちゃんと対応はできてるけども

いつの間にか結婚式当日で

何も考えずに流れ作業で服を決めて、ビシッとキメて

「…………顔、よし」

鏡の前でばっちり最終チェックは行った。何をもってよしとするのか俺もよくわかんねぇけど

その日はボスの結婚式にも関わらず、右腕と言う立派な肩書きの獄寺は欠席していた

「山本」

挨拶回りも落ち着いたのか、隅っこで酒飲んでる俺のとこに来た

「よっ。ツナ、おめっとーさん」

「ありがとう。今日は飲み過ぎに注意してね」

お互いのグラスをぶつけて乾杯

ちょっと嫌味言われて。完敗

「山本来てくれてよかったー。獄寺君は…欠席だから……」

少し、悲しそうに目を伏せているけど、多分。ツナ自身も何で来ないかって分かってる

あの日、俺達が朝まで飲んでた理由だってきっと分かってる

「もっと早く言うべきだったのにね…今の人も本当に好きだし、形だけの結婚じゃない。でもね、獄寺君も本当に好きだったから、ギリギリまで恋人でいてほしかったんだ。酷いよね」

だとよ。聞こえたか?獄寺

お前。ちゃんと愛されてんじゃん

然り気無く入れてた通話ボタンを切ったら。直後に、メールが来た

『10代目に、おめでとうございます、いつまでもあなたの幸せを祈ってますって、伝えろ』

よっぽど、結婚が堪えてるな。だって俺に言付けを頼むんだから

同時に。よっぽど、嬉しかったんだ。俺を介してまで今言いたかったんだから

「ツナ。獄寺から」

携帯見せたら、少し涙ぐんで笑ってくれた

あれ。何でだろ。今俺嬉しい。心、ちくってしなかった

「ありがとう」

返す時に、ちょっと手が触れて。そして、目が合った

別に何かあるわけじゃないのに。何で見合ってるんだろ。でも何か言いたくて、少しでも目を合わしていたくて

とっさに出した言葉は

「ツナ、幸せ?」

とかよく分からないこんな日に聞くには意味の分からない質問だった

「うん。幸せだよ」

その笑顔はとても眩しかった

「…何で、山本泣いてるの?」

え?泣いてる?誰が?俺が?

あ。泣いてる。ぽろり、ぽろり

まるであの日のように。溢れ出てきた

「だ、大丈夫?山本どうしたの?どうして泣いてるの??」

目の前でツナが慌てふためいてる

何でかな。なんでかな。そうだなぁ

「ツナが……しあわせだか…ら…」

意味の分からない答えかもしれないけど

これが答えだ。ツナが幸せだから、泣いてるよ

そしたらツナまで泣き出した。馬鹿だなぁ。泣くなよ。大の大人がふたりして何でこんなとこで泣いてるんだよ

「ありがとう、ありがとう…っ」

ツナはずっとお礼を言ってた

な、ツナ

今、俺が好きなのはツナだし、一番大事なのはツナだし、守りたいのもツナだし、ツナのために生きてたい

でも、いつか…ツナと同じくらい好きで、ツナと同じくらい大事にしたくて、ツナと同じくらい守りたくて、ツナのためにと同じくらいきてたいって思える人に出会うよ

絶対、出会って、そして

今のツナと同じくらい、幸せになるから

その時は。今日の俺みたいにおめでとうって言ってくれな

今日の俺みたいに、俺が幸せだからって言って泣いてくれな

今日は


2回目の。失恋日


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あとがき

毎度お馴染み悲しい山ツナごめんなさい

無自覚にツナに恋してて、何かショックで泣いて初めて自覚する山本が書きたかったんです

ツナが幸せなのが嬉しくて泣いちゃう山本が書きたかったんです

それでもいつか、幸せになるよって前向きな山本が愛しいと思う


2012.06.24



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