それは心に一番近いもの


「みーどりーたなーびくーなーみーもーりーのー」

式の最後の校歌斉唱

今年の俺には。少しだけ意味があるもの


「ふぁ〜…あーだるかったのなぁ…俺途中で寝ちまった」

「ちっ。ぐーすかいびきかきやがって。果てろ」

「えっ。嘘。俺いびきかいてた?」

「だ、大丈夫だよ。獄寺君もあんまそういうこと言っちゃ駄目だよ」

今日は卒業式だった

でも、それは別に俺等の卒業式じゃないから別に出なくても…と去年はよく思ってた

先生達の話は長いし、だるいし、眠いし…

正直。俺も軽く寝てたからあんま山本のこと言えない

「あっ。でもよぉ。やっぱ笹川先輩すごかったよな!!皆あれで一気に目が覚めたんじゃね!?」

どきって。心臓が跳ね上がる

「芝生頭な……あいつ只の馬鹿じゃねぇか。そう思いませんか10代目………10代目?」

「え…?あ、あああぁ、あ、う、うんっそうだよねっ!!お兄さんらしいって言うかさ!!さすがだよね!!」


何かちゃんと聞いてなかったけど多分お兄さんのこと言ってたんだと思う


そう。俺も、山本みたいに寝ちゃってて…先輩達全員の証書授与を見てるのは正直辛い

あぁ、でも、お兄さんだけはちゃんと聞こうと思ってたんだ…でもうつらうつらとしてた

『笹川了平……』

『きょっっくげーん!!!!!!笹川了平!!いざ参る!!!!』

マイクを使ってる担任よりもでかい声

いや、でかい声の人なら沢山いる

その中でまともに返事しない。そんなまともじゃない人はそうそういない

そうそう。これが原因でちゃんと返事した青葉紅葉と喧嘩して式がめちゃくちゃになった

何かもう…本当お兄さんらしい

俺達の学年でも知らないって人はあまりいないと思う。それは、学年で人気の京子ちゃんのお兄さんってだけじゃなくて

彼自身がとにかく目立つ…声がでかいし常に走り回ってるし

でも。そういうことしてなければお兄さんだって感じがしないのも事実だったり……

だから。今日のめちゃくちゃな卒業式も。何だか俺は微笑ましく眺めていた


4月から…もう。お兄さんはこの学校にいないんだなぁって思ったら何だか寂しくなってきた

会う度にボクシング部に誘われて、その度に必死に断って

毎日京子ちゃんのところに来て…いや、最近は。京子ちゃんのところじゃなくなった

来月から、お別れって以外の寂しさが。心に少しずつ少しずつ積もってくる

「ツーナ」

「へ?あいたっ」

悶々としながら歩いてたら山本からでこぴんを喰らった。痛い…

「ツナ、行くなら今がチャンスなのな!!仮に駄目でも来月から滅多に会わない!!」

山本が何を言ってるのかよく分からない

「10代目…俺は、いつでも…あなたの味方ですっ!!だから!!行ってください!!」

「あ、獄寺ずりぃ!!ツナ、俺も俺も!!ずっと味方!!」

2人して俺の手を握ってくる…え、本当に何…!?

「大丈夫だってツナ。きっと桜咲く!!な!!」

「いや、ね、本当分からないんだけど。2人とも何?」

そしたら変な顔された…!!
何なんだよ!!そんな顔されても困るよ!!

「だ、だって10代目…芝生頭のこと……うぅ…っ!!俺っ、応援してますからあああぁ!!!!」

こうして獄寺君は泣きながらこの場所を去った。何が言いたかったのかな…俺が…お兄さんに…?

「ツナ、獄寺。すっげぇ頑張って応援してくれたぜ?こういうのって強制するもんじゃないって分かってるけど…今日がチャンスなのも事実なのな?」

いや。そもそも何の応援をしてくれたのか俺にはいまいち分からない

「ツナさ。自分で気付かないふりしてるだろ。でも、俺達はやっぱ…分かってるから。笹川先輩のとこ。行くといいのな」

何で行かなきゃいけないんだろう

行ってやらなきゃいけないことがあるの?

あるよ、って心のどこかで俺が答える

分かってるよ。気付かないふりしてたよ。だって悲しいだけだもん

「んな泣きそうな顔すんなって。泣くのはまだ早いのな」

泣かそうとしてるの誰だよ

だって仮にじゃなくて、もう駄目だって分かってて。何でそれでも行かなきゃいけないんだよ

「思い出くらい作ってこいって。な?俺達、教室で待ってるから」

ぽんって背中を押してくれた。後ろを見たら然り気無く獄寺君がこっちを見てた

向き合いたくない…そう思うんだけど。でもきっと。行かないと後悔はしちゃうんだろうな

お兄さんと…学校が一緒な今のうちに。ちゃんと思い出を…作ろう

「ありがとう。行ってくるね」

と言いながらもやっぱり足が進まなくて。ギリギリまで山本についてきてもらった。情けない…いや、でも卒業式で感極まってるであろう3年生の教室に俺が行くのはちょっとね…!!

「ちょっと君達どこ行くの。ここは3年生のフロアのはずだけど?」

すっ…と静かに刺すような低い声。振り向かなくても誰か分かる。ごめん山本…!!完璧巻き込んだ…!!

「いいじゃねーか別に。先輩に挨拶くらいしても。野球部の先輩結構いるんだよ」

山本すっげええぇ!!

「……………まぁいいよ。でも1つだけいいこと教えてあげるよ。式をめちゃくちゃにした学生なら屋上に行ったよ」

それだけ言うと学ランを翻してその場を去った

その背中からはすごく怖いオーラが見えます。そりゃそうだよね!!学校大好き雲雀さんが卒業式めちゃくちゃにされて怒らないわけがないよね!!

「ツナ。先輩屋上だって。どうする?ついていこうか?」

心配そうな顔で俺を見てくれた。でも…さすがにそこまで甘えちゃいけないと思うから

「大丈夫、だよ。行ってくる。でもっ教室で待っててね!?絶対だよ!?」

「分かってるって!!頑張れよ!!」

それでも何だかんだで屋上の階段まではついてきてくれた。でも、笑顔でもう一度応援して戻っていった

うん。大丈夫…あとは。俺が頑張るだけだから…!!


屋上に通じるドアはやたら固くて重く感じた

「え、いや、ちょ、本当に固い…!!」

力の限り、ドアノブを下げて。全体重かけてドアを押した


ガタンっっ!!


大きな音と共に思い切りドアを開けて

おかげで俺はそこにいた人達の注目を一気に浴びた

そう。いたのは複数。探してたお兄さんだけじゃなくて

「ツナ君!!どうしたの?」

京子ちゃんと
その友達がいた

「え、あ、いや、その…ちょっと、屋上に来てみたい気分だったから来ただけだったんだ!!か、勝手に来ちゃってごめんねっ俺が出てくからっ」

喉がカラカラに乾いて。視界もあんまはっきりしなくなるくらい気分が落ちて。心臓がうるさいくらいに鳴ってる

「待ちなさいよ。京子、行くわよ。じゃあ、また後でね」

何を思ったのか

出ていこうとした俺を引き止めて。京子ちゃんを連れて出ていった

「え、く、黒川…!!」

「今だけよ」

俺にだけ聞こえる声で呟いて。目も合わさず、手だけ振って通り過ぎた

それはどういうことなのかな。あいつは分かってるのかな

「どうした沢田。せっかくだからこっち来いっ。極限にいい天気だぞ!!」

お兄さんの笑顔は。正直太陽より眩しくて

馬鹿じゃないかって言われそうだけど。ついさっき自覚を持った俺にとっては結構本気で

「丁度よかった。後で沢田のところに向かおうと思っていたのだ!!」

俺のところに?何で?
そんな風に言われると嫌でも期待してしまう

駄目だって分かってるのに
今だって、はっきりこの目で見たのに

「渡したいものがあってな」

何だろう。渡したいもの?
入部届けとか?そんなのしか思い付かない

なんて。嘘ついた
だって欲しいものがある
それは絶対貰えないものだけど

「さぁ!!手を出せ!!」

グーに握った拳を突き出してきた。から思わず俺も握った拳をぶつけた

うん、まぁ、これも……思い出…

「ちがああぁう!!手を開け!!!!」

「ひいいぃ!?」

突然大きな声を出されてすごくびっくりしたけど、慌てて手を開いた

そこに、ころん、と何かが落とされた

「え………あの、これっ」


その何かはボタン
上着を見れば、1つだけボタンが無い場所があった

そこは、いくら、ブレザーと言っても

「京子にな、言われたのだ。一番大事な奴に渡せと」

第2ボタン


「な、何で俺に!?黒川じゃ……」

お兄さんは少し考え込んで。また眩しい笑顔を見せた

「そうだな。花は………これから一番大事になる奴だ。だが…今、一番大事な奴はお前だ。沢田。だから、これをお前にやる」

無理矢理渡すかのように、ボタンを受け取った手を握らされた

ボタンとか、お兄さんの言葉とか、笑顔とか、何か。全部受け取ったら

「……………っぅ」

「お、おい!?どうした!?」

涙が出てきた

「こらぁ!!泣くな!!男なら!!極限泣き止め!!」

意味が分からない。極限に泣き止めない

眩しすぎて。何も見えないよ

黒川、ごめんね。今日だけ、ごめんね。ありがとう


泣き止ませようと髪の毛をぐっしゃぐしゃに撫でてくる。何かもう。それすらも切なくてさらに泣くしかなかった

「そつぎょう…おめでとうごらいまふぅ……」

何言ってんだか自分でもよく分かんないけど、お兄さんは笑顔でお礼を言ってくれた。やっぱり眩しかった

青空の下で
俺にとって
太陽の人の腕の中で

気が済むまで泣いた



おまけ

ショックじゃないって言ったら嘘になる

悪いとは思ったけど。暫く立ち聞きしちゃった

ある程度でその場を去る

「花!!ねぇ、よかったの?」

「いいのよ」

京子は分からなかった?
私には分かった

アイツが屋上に現れて。目が合ったとき

同じ。恋してる目をしていた

ねぇ。沢田。アンタが女じゃなくてよかったなんて本気で考えちゃった

馬鹿みたい

「でも…ごめんね、花…私がお兄ちゃんに昨日あんなこと言ったから…っ」

「そんなこと気にしないでよ。あの人が自分で選んだんだから。いいの」

それに。言ってたじゃない

「これから一番大事になる奴が私だから。いいのよ」

でも京子

今日は、やけ食い付き合ってね

「花」

さすがは親友。私の考えてること分かったみたい

「ケーキ、買いに行こっか!!」

「うん」

今日はとてもいい天気


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あとがき
卒業式ネタなので。何があっても

3月中に終わらせたかった!!終わった!!やった!!

何か何でこんなに長くなったのかよく分からない。第2ボタンにまつわる了ツナ書きたかっただけなんだ

多分、この後いつまで経ってもツナが泣き止まないからそのまま了平が教室まで送って山本が宥めて獄寺君がおろおろしたりキレたりしてると思う

花ちゃんと京子ちゃんも女の子の友情

友達大事

何故かモテる兄貴。おめでとう

2012.03.27



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