息が白いある冬の日


いつまで経っても偽者なスクアーロさん
甘いはず


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温かさなんざ

温もりなんざ

愛しさなんざ

そんなものは



そんなものは。とうの昔に忘れていた




「ゔー………冷えんなぁ゙…」

はるばるこんなとこまでわざわざ来て人を待つ自分に何だか笑えてくる

「……………おせぇ」

遅刻してくる理由は大体予想がつく


寝坊。ガキ共に泣かれた。アルコバレーノに撃たれそうになった。忠犬に捕まった。山本がついてきて巻くのに時間がかかった


さて。今日はどんな理由で来ることやら


「スクー!!お待たせぇ!!」

考えてるうちに来て

「うわっ!?」

こける鈍くさいこいつを片手で受け止める

「あ、ありがとう…」

照れてはにかみ笑いしてくる
それでも若干苦笑いなのはプライドなのか遅れたことなのか

片手で受け止められるくらい小さくて軽い奴だが腕の中に確かに存在を感じる

「で?」

「え?あいたっ」

真っ直ぐ立たせてデコピンを一発。髪の毛ごと攻撃した。もっとダイレクトにやってやりてぇんだがな

「今日はどんな理由で遅れたんだぁ゙?」

思わずにやけてしまう。別に遅刻を責めるつもりもないが何と無くいじめたくなる。まるでガキみてぇだ

「あー……えっと、ディーノさんから電話が来て…今日こっちに着くから迎えに来てもらえないかって言われたんです」

今日は跳ね馬か…まさか学生時代の同級生にすら邪魔されるとは思わなかったぜ……

「で。行かなくてよかったのかぁ゙?」

こいつは何だかんだあいつになついているから。嫉妬しねぇと言えば嘘になるが止められはしねぇだろ。跳ね馬に八つ当たりくらいはするがなぁ゙

「え?だってスクと先に約束してたもん。スクに会えるの楽しみにしてたんだよ」

「…………………は」

「もう、酷いなぁ。これでも俺達…その……恋人同士じゃん…」

ゔお゙お゙ぉ゙い゙!!
何こっぱずかしいこと言ってやがる…!!ちくしょう……思わず頭抱えちまうじゃねぇか

「へへ…スク。顔真っ赤」

「てめぇに言われたくねぇよこの林檎野郎!!」

こいつだって顔真っ赤にしてるくせに。俺をからかうなんざ100万年早ぇ!!ちくしょう……俺等周りから見たら只のアホじゃねぇか…

「あ。雪だ……」

話そらしやがった……もうこいつの場合、照れて赤いのか寒くて赤いのか分からねぇ

「ったく…雪とは。どうりで冷えるわけだぁ゙」

お互いに吐く息は白くて気温の低さを痛感させる。そういや少し手の動きが鈍い

「と…とりあえずさ、移動しよ!!傘持ってる?」

俺のどこをどう見たら持ってるように見えるんだ……当然のように手ぶらだぞぉ゙…

「やっぱり持ってないよね。俺持ってきてるからさ。一緒に入ろ!!」

ポンッと小気味いい音を立てて傘を開いた。こいつに合わせてあるからちっせぇ傘

そのちっせぇ傘を奪って無言で歩き出せば慌ててついてきやがる

車道側にこいつが出ないように…危なっかしいからなぁ゙

「………ねぇスク。手繋ご?」

「やなこった」

普通なら繋ぐ方の手で傘を持ってるのにどうやって繋げっつうんだよ

「まだそんなに雪降ってないし。じゃあ分かった!!5分!!5分でいいから!!」

「やなこった」

そんなに降ってねぇっつったって濡れないわけではねぇ゙。冷えて風邪でも引いたらどうする

「………………ケチ」

「勝手に言ってろ」

そのままお互い無言で歩き続けた。それはすごく長く感じて。でも5分しか経ってねぇ゙。こんな長い時間繋いでられるか

いや………手を繋ぐのが嫌なんじゃ…なくて…

「傘」

持ってた手を引っ張られて

「傘返して。雪止んだ」

睨まれた。無言の圧力。イライラして敢えて返すのやめようかとも思ったがこれ以上雰囲気悪くしたくねぇ゙…ったく

「ほらよ」

畳んで返した……返して…こいつ………持ち変えた…ちくしょう。ゔお゙ぉ゙い゙。ちくしょうしか言ってねぇじゃねぇか。何で気付かなかった俺

「…………もう。断る理由無いよね?」

やってやったって笑みでこっち見てきやがった。渋々出すしかなかった


左手を


「へへー。やっと繋げた」

俺よりも幾分ちっせぇ手が握られる

俺は………正直言うと…

「スクはさ…あんまり左手触らせてくれないよね」

当たり前だろうがぁ。溜め息吐く姿は見せたくなかったけど多分白い息でバレた

「…………冷てぇだろ」

更に言えばそんなことすら分からない

もう左手に違和感は無い。動かすことに支障は何も無い

しかし。ちょっとした感覚は何も分からなくなった。動きが鈍いなら冷えてる、軽やかなら温まってる

そう。特に温度が分からなくなった。触感はある程度分かる。手がどれくらい沈むか、引っ掛かるか

けどそんな程度だから比較はできない。こんなもん、でしかない

だから、だから………

「もういいだろ?」

お前を感じ取れないのが辛い、そんなこと言えるわけもない

「ん?まだいいじゃん。ちゃんとスクの手温かいよ!!」

…………馬鹿かこいつは
そんなことあるわけねぇのに

俺の左手はもう俺じゃないのに

「渡るか」

渡れば、右手に変わるから

俺の手になるから

そうすれば、そうすれば

「…………いいよ、このままで」

少しだけ、力が込められたのが分かった

「……痛くねぇかぁ゙?固いだろ」

「大丈夫!!もうっ、スクは気にしすぎ」

んなこと言われたってよぉ゙…気にするに決まってんじゃねぇか……

「この左手だって、スクだよ。でしょ?」

なんてことを言って俺を覗き込む。笑顔で。少し、肩の荷が下りる気がして、少し……

あぁ……そういやぁこれが。愛しさって…気持ちだったか…

こいつが与えてくれるものは……温もりか…

「………………けっ」

「何その笑い方!!ん………?あれ。顔はすごい笑ってる。どうしたの」

「なんでもねぇ」

あったけぇ。お前といれるこの時ってのが

もし、本当に俺の左手が温かいなら

きっと、それは移ってきたお前の熱

体温を共用できるってのも…悪かねぇな

「なぁ、もしもよぉ゙……俺が全身偽物になってよ。今日みたいな日にめちゃくちゃ冷えてても、側にいてくれんのかぁ゙?」

って何聞いてんだ俺は。アホか

「…………うん。だってスクに変わりは無いから」

白い息を吐きながら。耳も鼻頭も真っ赤にさせて。繋いでる手も少し赤い

「…………馬鹿野郎」

場所なんて気にせず抱き締めた

んだよ。やっぱ冷えてんじゃねぇか。無理すんじゃねぇ゙

体温の共有も悪かねぇ。でも

「………まぁもうそんなことねぇだろうがな。誰かさんが今みたいに冷えたら困る」

やっぱ。温めてぇ

直に、感じていたい

「……………スクアーロ温かい。大好き。ねっ、スクアーロは?」

「…………馬鹿野郎」

答えなんて、決まりきってんだろ

「ずっと側にいてやるぜ、綱吉」

笑い合って白い息をお互いに吐き出してる俺等

俺が屈んでその白い息が一瞬止まったのはその数秒後



*おまけ*

「………偽物っつーより野獣の方がまだ温めてやれるよなぁ゙」

「何言ってんの。スクはいつも野獣じゃん」

「てめぇ……今夜覚悟してやがれ」

「残念ながら今夜はディーノさんが泊まりに来ますー」

……………やっぱアイツぶっ飛ばすかぁ゙


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あとがき

あっま!!何だこれあっま!!書いてて砂吐きそうになった←

とか言ってそんなことねぇよって思われてる方がほとんどだと思います。多分私が甘い話書いたの久し振りなせい

同じ台詞を2回言ったりしてるのはわざとです。決して大事なことだから2回言ったとかでは…

スクが実際義手でどこまで感じられてるかは分かりませんが…こんぐらい普通に関知してたりしそうですよね。だってヴァリアークオリティ

でも左手でツナに触れる時どんな気持ちなのかなぁとかツナが左手に触る時とかどんな気持ちなのかなぁと考えるのですよ

ちなみに当初の予定ではツナが泣きながら「温かいよ」って言ってスクが苦笑いしながら「そりゃあお前の温度だ…」って涙を拭う話でした

どうしてこうなった!!

そしてまさかの妙にでしゃばるディーノさん書いてて楽しかったです


2012.01.26



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