夏祭り


「獄寺君っ」

いよいよ夏本番
衣替えはとっくの通りだしタオルも必需品

暑さに体を動かすのが少しダルいと思っているのに10代目に話しかけられると不思議と軽くなる

「どうされたんですか?10代目」

何て聞きながらも何と無くは用件が分かる

でもそれは…一種の期待。そしてもっともっと深いところの期待。でもそれは全て幻想だなんて知ってる

「今週の土曜日、空いてる?」

全部、全部、幻想で
本当はこの誘いを断りたい
でも、それでも、僅かに持つ期待と

分かりながらも、やはり好きな人と過ごしたいと思う

「夏祭り…ッスね!!勿論リサーチ済みです!!今年も行きますか?」

俺から振るととても安心したような顔

その顔がどちらの顔か…考えるまでもなく、俺は分かる

でも……少しくらい、期待したっていいじゃないっスか

「山本も部活休みらしいんだ。今年も3人で行けるね!!」

そう。毎回3人で行く夏祭り。でも今年は何かが変わるかもしれない。そう思いながらも毎回何も変わらなかった

誰も行動をしないから



「おーい獄寺」

10代目と別れてふらふら歩いてたら部活帰りの山本と会った

「……………」

「おいおい何だよ!!シカトか?」

てめぇなんかと話したくもねぇよ

「なぁ…お前に頼み事あるっつったら怒るか?」

「んなの当たり前だろうが。テメェで何とかしやがれ」

「そうだよなぁー…やっぱ自分の力でやるもんだよな。うん」

何を頼もうとしてるかなんて分かりきってて

あぁ、もう、何で…っ


「…………今度の、土曜日だな」

意味深でも何でも無い言葉を奴は残して俺達も別れた


ピーンポーン♪

「10代目ー!!」

「ツナー!!迎え来たのなー!!!!」

「うんっ今行くー!!」

土曜日、約束の時間に10代目のお宅へ。中はいつもの様にバタバタしている

「ツナー!!俺っちも行く!!」

「ランボ。ランボは僕達と一緒だよ。ツナ兄はもう2人と約束してるんだから」

「ヤダヤダヤダヤダ!!俺っちもツナと一緒に行く!!行くったら行くんだもんね!!!!」

あのアホ牛…相変わらず10代目に迷惑ばっかかけやがって…!!

さすがの山本も…今日は一緒に行こうとはしない、か

「ツナも大変そうなのなー」

言い方も表情も穏やかだが……目だけは本気だ。毎年、そうだがな

今年は…何か変わるのか……?






「うっわぁー!!やっぱり夏祭りは沢山人が来るねぇ」

どこを見ても人、人、人
雲雀が見たらぶちギレそうだ

「んじゃまぁ屋台適当に回るかっ」

「っ!?あ、っう、うんっ」

山本にイラッとした
別に今だけじゃない。こいつが10代目に肩組んだりとか…そういうのはよくあることで

「あ、わりっ。痛かったか?」

「ううん、全然っ!!あ、ほら獄寺君、早く行こうよ」

そして…逸らすように、10代目が俺の名前を呼ぶのもいつものことだ

「はい。10代目」





「りんごあめ、わたあめ、チョコバナナに焼きそば。あと何かあるかな?」

ある程度、祭りと言えば…というようなものは食べきった

「屋台もいいですが…もうそろそろ花火の時間ではないですか?」

夏祭りは毎回、花火が上がる
町の祭りだからたががしれてるが……見ると初めて見たときを思い出す

山本の家に借金作って…屋台を出して…チンピラと喧嘩して………

規模なんて関係無い。誰かと共に見ることの幸せを感じた。いや、誰かではない。そう、それは

「ツナ、どうせだしかき氷買わね?食いながら見ようぜ。な、獄寺も」

あぁー…俺達って本当バランスが悪い

「10代目。せっかくですし買いに行きましょうよ」

「うん、そうだね」

近くの屋台にはかき氷が見当たらなくて

「おっ。人混みの先にあるのな。花火見るならあの先だしいっちょ頑張るか」

そして3人で人混みの中へと突っ込んでいった




のはいいんだが

「きっつ…10代目、大丈夫ですか?」

「うん…っ、何とか。山本、大丈夫?」

「おう。ちゃんとついてきてな!!」

山本、10代目、俺の順に並んでいるが少しでも気を抜くとはぐれる

(少しでも10代目の負担を減らさなければ…!!)

そう考えた矢先

10代目の向きがおかしなとこに行った

人に押されて、進路が変更されてしまったのかと思い見たら

進路は…故意に変更されていた

アイツの手によって

10代目は、何が何だか分かっていない

そして、アイツが


山本が


振り向いて俺と目が合って……あぁ、ついに。この日がやってきたんだ。なんて、どこか遠くのことに思えた

人混みにのまれてうまく足が進まなくて、人混みにのまれてうまく息ができなくて、人混みにのまれてうまく手が伸ばせなくて

本当に?人混みのせいか?

それは、違う。分かってる
止めたい。今すぐ追い掛けて

今すぐ奪い返して

今すぐ…いつも通りの3人へ………

あぁ。俺の望みは……何だ…




何とか、人混みを抜けた。10代目からメールが入っていた

『今どこらへんにいる!?』

俺が同じことをあなたに聞きたいです

どこにいますか。あいつと何を話しましたか。今、俺達の関係はどうなっていますか

『10代目ご無事ですか!?俺は何とか人混み抜けました!!しかしかき氷買えず…情けないッス……せめてもの意味で最高の花火スポット用意します!!神社の階段で待ってますね』

いつも通りの俺で、何も感じさせないようにメールを返信した

初めてあなたと花火を見た神社
あなたという存在は俺にとって全てを特別にしてくれた
こんな、どこにでもあるような神社が

どこの祭りでもやるようなちゃちい打ち上げ花火が

俺の中の…大事な思い出に刻まれているんです

女々しいと思いますか?気持ち悪いと思いますか?

1人。まだ何も上げられていない黒い夜空を見上げた



「獄寺君!!ごめんね待たせて」

「いえ!!大丈夫ッス!!むしろ俺がついていながら…」

違うけど…でも、何も気付いてないフリ。しますから

「わりーな獄寺。俺が道間違えてツナそのまま付いてきちまったんだよな」

「あ、う…うん……」

10代目の返事は…どこか。違った


「懐かしいなここ」

「うん…そうだね」

2人が話し始めた
いつもなら、ここで割り込むけども。もう、俺達はいつも通りじゃないから

俺の存在を除外するように話す山本に、俺の存在になんて気付かないように山本と話し続ける10代目

1人で空を見上げた





そして、俺は立ち去り1人家路を行く

歩いて数分で花火の音が聞こえた

あぁ、毎回あなたと見てたのに…今日から1人で見ることになるんですね

「俺の望みは…あなたが幸せになることです」

いつも通りの俺達3人の関係はいとも簡単に壊れた。微妙なバランスで保っていたものが崩れた

ずっと見てきたから知ってます

あなたがずっと山本を好きだったのを。山本と接するのが怖くなって俺にずっと助けを求めていたのを

知ってるんです。ずっと、あなたを見てきたから

「10代目…あなたのことが…好きなんです」

小さな告白と泣き声は

大きな花火が消した

暗闇に1人で立つ俺を照らすのは

大きな、大きな、打ち上げ花火



*おまけ*

今年こそは…毎回そう思う。でも結局いつも何もできなかった

いつも通り時間が流れてく

言わない理由なんて、結局は怖いからだ。だってツナはいつからか俺から少し離れて、獄寺とばかり喋るようになって

あぁ、獄寺のこと好きなんだなぁって思ったから何もできなかった

でも、いつもいつも避けられて。獄寺とばかり話すの見てるのが辛くて

玉砕でも何でもいいから伝えることにした。もうベタな言い方すんならあれだな。花火のように散るってか

はは……ヘタクソ


最後は花火を見ると決めている。あ……ここを通っても…あそこまで行けるのか

かき氷を口実に人混みに入らせて隙を見てツナの手を取った

見たら…どこか辛そうな顔していて胸が痛んだ。でも、この後の俺の方がもっと…辛いから

手を取って、人通りが少ない道へと引っ張って

獄寺の方を振り向いたら目が合った

何つー顔してんだよ…泣きてぇのは俺だよ。ワリ…少しだけ、二人きりにさせてくれな





「山本っ、何でこんなこと…っ」

人がほとんどいない場所へと来て漸く手を離す

「獄寺君はぐれちゃったよ!!」

あぁ、ほら。またそうやって獄寺

「と、とりあえずメールしなきゃ」

ちょっとムカッとした。今、俺と2人でいるのに…俺、汗かいて手が震えるほど緊張してんのに

今ぐらい、俺を見てくれたっていいのに

「わっ!?何すんの!?」

ツナの携帯を取り上げるなんて簡単なことで。上まで上げてしまえばツナには届かない

「な、ツナ。聞いて?」

「で、でもっ、先に連絡取り合わないと……」

あぁっ、もう

「そんなに獄寺が好きなのかよ!?」

ついつい声を上げてしまった。一度上げたらあとは流れていくのみだ

「いいんだよ…別に、それでも構わないんだ。誰を好きになるかなんて自由なんだから。でもっ」

泣きてぇよ……好きな子に怒鳴るとか本当最低

「俺と距離取んなよ!?何でいきなり離れたんだよ!!何で避けるんだよ……俺はっ、お前のこと…っ」

俺は……俺は…っ

「俺が……俺が好きなのは…」

獄寺なんだろ?俺じゃないんだろ?

「俺は…っ、山本が好きなんだよっ!!」

その瞬間、思考回路が停止した。一瞬、何を言われたのかさっぱり分からなかった

「俺は…山本が好きなんだよ。でもっ、でもっ、怖くて…嫌われるのも、これ以上好きになるのも怖くてっ」

つまり……獄寺は…逃げていただけ?

そんな中、俺の手元が振動した。あぁ……メール。送ってたんだ…

何か、頭が回らなくて、真っ赤な顔で眉間にシワを寄せる目の前の小さな子に携帯を返した

「………獄寺君。神社の階段で待ってるって」

「ん……行くか」

何を話すでもなく
只、肩を並べて歩いた

でも距離は心無しか……狭くなったかもしれない




神社に着くと獄寺が待ち構えていた

いつものようにふるまい、全部知ってるはずなのにいつも通りにしていた

「懐かしいなここ」

ごめん、獄寺

「うん、そうだね」

ごめん、ツナ

ここを2人きりにさせるように……ツナに話し掛けて、ツナを俺に引き込んで


ごめん、ありがとう


「あ、あれっ!?獄寺君は!?」

…………あぁ、もう
探しに行こうとしたツナの手を引っ張った

「もう少しで花火はじまっから」

「でも………」

それに

「俺、お前にちゃんと返事してない。ちゃんと言ってない」

お互い息を飲んでいた

まるで酸欠で、頭がくらくらする

「俺は、ツナのことが───────」




一番大事なとこは大きな花火が消した

「……………俺も、山本が…好き…」

でも……ツナにはちゃんと届いた

誰もいないから引き寄せて

お互い、緊張しながら震える口を重ねた

そんな俺達を照らすのは


大きな、大きな、打ち上げ花火


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あとがき

あれ。何だか意外に長い話になりました…

サンドで山ツナ結論になった作品って無いですよね?確かこれが初めて

2人がツナを好きでツナがどちらかを好きになれば誰かが1人になる。3人いるから当たり前なんですが

ずっとこの3人は一緒にいるから、そのバランスを保つのは大変だし、かと言って崩せないし

それを崩しちゃいましたって話ですね。彼等はこの後どうなるのかなぁ…


2011.07.31



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