ゆっくり、ゆっくり

時間を過ごしていた


今日は。愛する妻マリアとの間に産まれた愛する娘モニカの息子。つまり俺の愛する孫…ツナの誕生日だ

毎年のように屋敷はパーティーの準備に追われている

そして毎年のようにツナはみんなから逃げ回っている。恐らくその内来るだろう

「じいちゃんっ!!」

ほらな

「おぉ…よく来たな。今日は誕生日だったか。おめでとう」

ツナも大きくなった…モニカがいなくなってからそれくらい年数が経った

最後にちゃんと祝ってやれたのは数年前

もう体は丈夫じゃない…普通に生活するのが一苦労だ。寝たきりの生活が続く

ツナは俺の顔を見るなり何か言いたそうな顔をしていたけど、結局何も言わずに俺からも逃げるように出ていってしまった

少し寂しさを感じる


もう自分が長くないことくらい分かる。最近は昔の色んなことを思い出すのが癖だ

色んな人と関わってきたけれど。その中のどれだけの人の気持ちを分かっていたんだろうか

マリアがひとりで泣いてたなんて知らず、モニカが俺に怒ってたなんて知らず、悲しませてばかりで

モニカの14歳の誕生日から。彼女達を愛するようになった


それまで愛していた人は…相手が俺をもう愛してくれていなかったから。俺ももう忘れようとしたんだ

でも。どうやらそんなことはできなかったようで。自分のことすら分かってなかったと思い知らされた


この日から。色々と俺の中で何かが変わっていって。次第に幸せを感じるようになった

ツナの産声を聞いたとき、モニカと別れをしたとき、とても泣いた。また、誰かの為に泣くことができるものなのか、と…思った…


「…………今日は。やけに眠いな」


ツナはまだ帰ってこない

「つな………」

俺は。どっちの名前を呼んだんだろうか。分からない

ふと外を見るといつの間にか日が暮れていた
夕焼けを見るとあの日を思い出す
俺達を照らしたステンドグラス。綺麗だったよな

お前は、俺の中でずっと泣いていたよな

何で。俺はこんなに思い出してるんだろう。今までは、少し通り過ぎる程度だったのに

「じいちゃん、ただいま」

「おう、おかえり」

そこに。ツナが帰ってきた

「今日はどこに行ってきたんだ?」

少し言いにくそうで
何と無く。もしかして、と思った

それは。当たってしまった
そうか…あそこに。行ってきたのか

「何かねー。じいちゃんのこと知ってるジャッポーネのおっさん達に追いかけ回されたり…あ、そうそう!!あいつら酷いんだよ!?」

ツナは名前を覚えてこれなかったみたいだけど。話を聞いてると分かる

獄寺に、山本に。そして恭弥だ

「あいつらは相変わらずだな」

何も変わらない
昔に戻ったような気にすらなる

あいつは…元気かな……
あぁ、つか。会っちまったかな

「ツナさんを…見た…」

やっぱり、な。自分が苦笑いしてるのが分かる

ツナは、知ってるから。名前の意味を

俺が過去に愛してた人だってことを

「もう、ね。いないんだって」

そして。その事実に驚いた

「そうか……俺よりも先に行っちまったんだな…」

何だろう。少し。力が抜けた
あぁ…駄目だ。やっぱり。今日は眠い

そしたら、ツナに沢山の手紙を渡された

封がされてない手紙を。一番上から開いて

見慣れた文字に懐かしさを感じた

俺と離れてから……お前はこんなに手紙をため込んでいたんだな

最後の手紙は涙が出そうになった

お前は、握り締めて、涙を流したんだろう?

泣くなよ…もう、俺とは絆を切ったんだろう?

ばかだなぁ

どっちが?どっちもだ

「あと………これ」

まだ、手紙はあったみたいで

でもそれはさっきまで読んでいたのと明らかに違う

宛先が書かれて、封もされて…つまり、送るつもりだったけどやめたものなんだろう

それは。俺の結婚式の欠席の手紙

これをまた読む日が来るとは思わなかった
今でも思い出せる。もう、会いに来ないでくださいと書かれた手紙

案の定。あの時と同じ文章が書かれていて、胸が締め付けられる思いだった


でも。その手紙は。数十年前に受け取った手紙と違うもので

数年前に受け取った文章に、続きが書かれていて

「……………そうか。嫌われた訳じゃ…なかったんだ…」

ついに。泣いてしまった

静かに。静かに。あの頃の気持ちが甦る

「ツナ。この手紙は読んでないんだよな…?」

「うん………他は、その…」

気まずそうに返事をする
いいんだ

「大丈夫、怒ってないから。ありがとうな…届けてくれて……でもな、この手紙だけは…」

あぁ、だめだ。眠い
安心しちまったのかな

「俺と…ツナの2人きりの秘密が書いてあるから……読まないでくれ。そして…俺と一緒に…葬ってくれ……」

瞼が閉じていく
抗うこともできない。だって。すげぇ眠いんだ

でも………寝てしまう前に

聞きたいことがあるんだ

「なぁ、ツナ………お前は幸せか?」

できていなければ、名前を押し付けただけになる

そして。俺自身があの日から何も変わってないことになる


ツナは…


「じいちゃんが…俺を幸せにしてくれた……!!」

頷いてくれた
あぁ、よかった
そして、これからは。もっと


幸せになってくれ


瞼を閉じきった
何だろう。とても穏やかだ

そうか。これが

幸せ、って。気持ちなんだ

向こうに着いたら

マリアに、愛してるって伝えて
モニカに、ツナのことを話そう

そして。ふたりに謝ろう

きっと。マリアは寂しそうに笑って、モニカは怒るだろうな

お前らも愛してる

でも、な。ごめんな

会いたい奴が。いるんだ

「……………ツナ。ようやく……お前に…会いに行けるな………」

俺はもう、じいさんになっちまったけど

走って行くよ


抱き締めて。ごめんな、って謝って

再び、この言葉を言おう




お前を

愛してる


--------------------------
あとがき

終わりです。漸く終わりです
無駄に引き伸ばしてしまった感じですみません

やはり、ツナので最後にしたくはないな、と思いましてディーノさん書きました

やっぱポイントはちょっとずれてるディーノさんかと。違うだろ、そうじゃないだろお前!!

って言いたくなるのを目指してました


長々と本当ありがとうございました!!


2012.05.27



目次/TOP

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -