エメラルドの戯言
メロンソーダが好きだ。
何が好きってあの色がいい。
自然色なんてものとはかけ離れた完全なる人工色。昔、友人が海みたいな色だねなどとぬかしたが、お前の目玉は一体どうなっているのかと聞いてやりたい心地になったのをよく覚えている。
人工の緑はあまりにもシュールだ。人体に悪影響を与えるためにあるようなエメラルドグリーン。その池に浮かぶ白い球は、人工のカリブ海に負けて元の色を忘れつつある。
そして極めつけは人工甘味料まる出しのあの味。口の中で弾ける炭酸に、色鮮やかなチェリーが一つ。
何て狂気、いや凶器。
しかしながら、そんなメロンソーダが好きなのだ。
それはもう小さい頃から、好きな食べ物ベスト3には必ず名を連ねるほど大好きだ。
「お前、それはメロンソーダに対する冒涜か?」
とつとつとメロンソーダについて愛を語っていた小林に、顔をしかめた沼澤が問う。
「むしろ敬愛だろ尊敬だろ!このメロンソーダという物を生み出した奇特な人に感謝したいよ俺は!心の底から!」
「嘘だろ、それ嘘だろ?」
ファミレスの一角でメロンソーダ云々の議題に費やすこと一時間。小林の前には二杯目の器が運ばれていた。
人工のエメラルドはそう比喩した本人の手によって無惨にかき回され、アイスクリームと混ざり合って斑模様を描いている。先ほどから長いスプーンで目茶苦茶にかき混ぜ、時折思い出したように口に運ぶ動作を繰り返す小林に、沼澤は息を吐いた。
「……小林」
「なに」
「飽きたならそう言え」
「は?何が、全然」
「嘘つけ。さっきから減ってない」
グラスには半分以上のメロンソーダが残っている。
じぃとそれを眺めた小林は、唐突に沼澤を見つめた。
「俺はメロンソーダが好き」
「何回も聞いた」
「でも、沼澤はもっと好きだよ」
「そりゃあどうも」
「沼澤も俺のこと好き?」
「まあね」
「じゃあお願い聞いてくれる」
「メロンソーダは食べません」
「………つっまんねー」
「ざけんな。一杯目を寄越した時点で二杯目頼むとか馬鹿だろ」
沼澤の前に置かれた食べかけのメロンソーダは、とうの昔にただの斑な液体へと変わっていた。
唇を尖らせた小林を正面に、沼澤はため息を吐く。気まぐれに口に運んだ愛すべきメロンソーダの残骸は、酷く甘ったるく沼澤の口内に広がった。





(オチなんてないよ!)





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