セブンスター
手の平に転がる白とピンクの丸い包みに村上は目を見開いた。手渡した当の本人は、指の間に挟んだ煙草を旨そうに吸っている。
「それやるよ」
「……ありがとうございます」
とりあえず礼を言ってはみたものの、自身にもそれを渡した象惟にも似つかわしくない可愛らしい物体をどうしたものかと逡巡する。
じっとその場に立ち尽くしていると驚異的な肺活量で一本目の煙草を消費した象惟が口を開いた。
「嫌いだったか、それ」
「いえ、そうではなくて」
「じゃあ食え。苺味だ。甘くて美味いぞー」
「はぁ…」
ほらほらと促す様はどこまでが本気か知れない。が、村上には断る理由もない。指先で包み紙の両端を引っ張ると薄いセロハンの中から透明な赤色が覗いた。口に含めば人工的な甘味が広がる。甘すぎるその味に顎の付け根と舌が痺れて痛んだ。
「甘いですね」
「そりゃあ飴だからな」
「好きなんですか飴」
「貰い物だよ。第六の暁が置いてった」
事も無げに告げた象惟のセリフに、村上はわずかに目を見開いた。口内の飴玉が苦みを帯びる。今すぐにでも口内の塊を粉々に噛み砕いて、一切の痕跡を消してしまいたい衝撃に駆られる。
暁に、酷く申し訳ないことをした。これは勝手な罪悪感だ。
村上はこの手のやりとりに巻き込まれることが酷く億劫だった。とりわけ今日は、現時点でそうゆう仲を取り持つ位置に居るという自覚がある。
「……いいんですか」
「何が?」
「貰ったんでしょう。暁さんに」
「いいんだよ。一袋置いてったんだ。一つくらいどうってことはねぇ」
「いや、そういうことではなくて」
溜め息を吐く。暁が何を考えてそれを贈ったのかやはりわからないでいるようだ。象惟の脳内など村上には土台想像出来ない。
再び溜め息を吐いて、象惟はポケットに入れた小さな包みに手を伸ばす。正直なところ村上自身なぜこんな事を頼まれたのか未だに理解出来なかった。包みを預けた三國の顔を思い出して首を捻る。
『医務室に行くなら、ついでに渡しといて』
村上の返事も聞かず立ち去った華奢な後ろ姿が酷く恨めしい。
意を決して軍服のポケットに入った紙包みを象惟の前に差し出した。
「何だこれ」
「三國さんから象惟さん宛に」
「……誕生日は未だ先だぞ」
「渡すように言われただけですから」
「何なんだ昨日から…。俺に何かさせる気か?」
苦笑とも何ともつかない表情で紙包みを受け取った象惟はすでにフィルター近くまで消費した煙草を捩り消した。
口内の飴玉は未だ大きさを変えず舌の上を転がっている。当分この甘味を忘れることは不可能なようだ。
紙包みを開いた象惟の顔がぴくりと固まる。
不審に思い手元を覗き込むと白い紙切れが見えた。
『第一、第六両隊より象惟医師へ』
予想外の文頭に思わずそれを読み進めた村上は、一瞬呆気た顔でしかし次の瞬間には勢いよく噴き出した。
「あー…こういう事かよ」
「…っ、みたいですね」
「笑ってんなよ……。どうりであいつら…共謀だったとは」
「いいじゃないですか。愛されてて」
「………」
本気で言ってんのかと目で問われ勿論ですと首肯く。
象惟の溜め息が長く室内に漏れた。未だ立ち上ぼる紫煙がそんな象惟を笑うように天井付近で四散する。
口内ではやっと溶けかけた飴玉がそれでも尚存在を主張している。甘い糖の塊を奥歯で噛み砕いて唾液と一緒に飲み込んだ。予想通り、それでも口内には飽きるほどの甘味が残る。
未だ笑いの収まらない村上の横では、リボンで飾られた煙草のようなそれを苦々しい様子で手にした象惟がいた。
「あいつら、覚えてろ」
「禁煙成功するといいですね。象惟さん」
大きな溜め息で返した象惟に、微笑んで、ピンク色の包み紙を屑籠に捨てた。







禁煙しなきゃ駄目ぢゃない








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