日常茶飯事
割と毎度の事。



試練だ。
何が試練かって其れは今の状況だ。
いつもの面子で高校卒業祝いという名目で宴会を開き酔っ払って、折角人数分用意してあった布団すらしっかり敷かずに上掛けやら毛布やらを引っ張り出して雑魚寝した、この状況。
蛍の見間違いで無ければ、いつも忍に敵わない筈の秋獅の踵が忍の腹にめり込んでいる。幸憲は窓際の隅で布団を被り、何とも穏やかに眠っているというのにこの差は何だろう。
忍もしっかりと布団を掛けているので、布団が衝撃を吸収してくれていれば良いのだが。彼が掛けているので、布団が衝撃を吸収してくれていれば良いのだが。彼が掛けているのはちゃっかり秋獅の弟から奪って来た良質の羽毛布団だし。
そういえば秋獅の寝相は凄まじい破壊力を持つと聞いた事がある。今この瞬間にも派手な寝返りを打って忍の腹から踵を退かしているし。ならば先程背中に受けた衝撃は秋獅の拳なり足だったのだろうか。寝付いたのが明け方だったというのに、今はまだ雀が鳴いて朝を告げるような時間帯。
(傍迷惑な…)
下克上かと思わせる光景に意識の覚醒を促されたものの、脳も体もまだ睡眠を欲しているのに変わり無い。蛍は被っていた毛布を引きずり、安全圏らしい幸憲の隣に移動して横になった。
幸憲の腹を枕にしてしまったのも、きっと彼なら許してくれるだろう。
と。
結局蛍が再び眠りに就いてから、暫し。
大の字になっていた秋獅の体がごろりと転がった。暦の上では春といえど、朝方は冬と変わらずに寒い。彼の使っていた筈の毛布は何故だか彼の足元に有り、まるで暖を求めるようにごろんごろんと体の向きが変わって、接したものに寄ってみては求めた温もりが無いと空き缶空き瓶を倒したりしてまた転がる。
そんな秋獅が身動ぎ一つせずに眠っていた忍にぶち当たったのは仕方無い事だと言えよう。安全圏の二人よりも近い位置に居たのだし。
先程、一瞬息が止まるような踵落としを見舞った事を覚えている筈の無い秋獅は、其れが温いと判断するや否や擦り寄った。たった其れだけの判断である。
布団の中に潜り込み、暖かさの源だった忍を抱き枕よろしく抱き締める。ぬくい。
問題が有ったとすれば、秋獅の腕力だったのだろう。ぎゅうぎゅうと忍を抱き締める腕は彼の腹に食い込んでいる。
「………。」
眠れる策士の、更に奥に潜む鬼を起こすには、其れは十分過ぎてしまった。
むくりと上体を起こそうとした忍は起き上がらない体に布団を捲る。捲って、有ったのはがっしり自分の腹をホールドする秋獅の腕だ。
次に、忍は酒瓶を手に取った。其れを取ろうと意図した訳では無く、ただ一番近くに有った。忍に擦り寄った秋獅と何ら変わりない、同等の理由で。酒瓶を振り上げた。
「ッい―――!!」
ガシャンと硝子の割れる音に目が覚めたのは二人。振り上げられ、瓶底を肩に叩き付けられた秋獅と、安全圏で眠っていた幸憲だ。
痛みを堪える秋獅は直ぐにぶっ飛んだ目をしている忍に気付いたが、残念ながら幸憲は腹に乗っている蛍に先に気付いてしまった為に、起きられず状況の把握すら出来ない。
「し、しのっ…、」
「俺の、眠りを、」
抑揚が無いくせに一句一句を区切る忍の声量は囁く程のもの。なのに何故だか部屋を満たし、秋獅の恐怖を煽る。
秋獅の腕が痛みに引っ込んだのを良い事に、忍は今度こそ上体を持ち上げた。手に、割れた酒瓶を持った侭。
「邪魔、するな」
維持する力が働いていないのか、こてり小首を傾げるように倒れた忍の顔に浮かぶ表情など、無い。能面のような無表情が、やはり眠りを妨げた原因を見ていた。
詰まり、秋獅を。
「待っ…!そんなモン振り下ろされたら死ぬ!!俺死んぢゃうっっ!!」
「良いじゃないか、……死ね」
悲鳴を上げたのは言うまでも無い。



ニチジョウチャメシゴト


(ヤられる前にヤったらァ…!)
(タイムタイムタイムヘルプミー!!)
(あわや流血大惨事。今回は少しだけ酷かった、のかもしれない。)


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志摩様より相互記念。
こうゆうノリ大好きです(笑)
楽しい高校生ノリっていうか。
リクエスト通りでどきどきしました。
志摩様ありがとうございました!

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