雨色ロジック
扉を開いてすぐ目と鼻の先。
祈るように空を見上げる姿に驚くと同時に、呆れと怒りとそれから様々な感情が綯い交ぜになった。自然に口をついてしまう言葉は低く不機嫌に彩られていて、肚の中にあったあらゆるものを吐き出してしまった気分になる。

「お前、何してんの」
「………頭を、冷やしてるんです」
「全身冷やしてどうすんだよ」

ゆるりと此方に顔を向けた麻井の頬に濡れた髪が張り付いている。断続的に空から流れ落ちる雨粒を遮るものは一切見あたらず、頭の天辺から爪先まで濡れそぼったその身体を無言で扉の中に引き入れた。

「それで、今回は何だ。神様に懺悔でもしてたのか。それとも、雨が染み付いた血液を洗い流してくれると思ったのか」

ヒーターの前に陣取ってすっぽりと毛布で全身を包む彼に問うてみる。
以前、花を喰うことで自身が浄化されると宣ったことがある人間だ。それくらい考えていてもおかしくない。
と、思っていたのだが。

「そんなこと、考えもしませんでしたねぇ」

飄々と言いながら、先ほど作ってやったココアに口を付ける彼に、怒鳴ることすら億劫になって肩を落とす。

「じゃあ、何なんだ一体」

溜め息と一緒に吐き出した言葉には、思ったよりも疲労が滲んでいた。
我ながら情けない。
再度溜め息を吐くと、深蒼の目がこちらを見つめた。
今度は一体何だ、と再び問えば彼は僅かに間を置いて口を開いた。

「寒いです」
「それは自業自得、」
「高頼さん、寒いです」
「……」
「温めて下さい」

毛布の隙間から窺い見るように覗く両目と、カップを包む両手にほとほと呆れかえる。
言葉が足りないのだ。伝える術を知らない、不器用な臆病者。素直に甘えることすら忘れてしまったのだろう。否、甘えることすら知らないでいるのかもしれない。
此方を見つめる深蒼の双眸に溜め息を吐いて両手を伸ばした。指先に触れた毛布を引いて、腕の中に閉じ込める。

「淋しいなら淋しいって言えよ阿呆」
「……高頼さんだけですよ」
「はあ?」

わけがわからんと呟けば腕の中で小さな笑い声がした。




空が泣く日に







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