君死にたまふ
大好きってゆってよ。
愛してるって笑ってよ。
だって俺、こんなにお前のこと好きなんだぜ。


藤崎美月は俺の後輩で恋人。
恋人なんて言ってはみるけど、実際そんな甘い関係じゃない。
それもまあ、仕事がらってのが一番大きいからで。


「ちょっ、美月…何その怪我!」
「あー…ちょっと貫通した」


さらりと言ってくれちゃいますがね、肩から血だらだら流しながら言う台詞じゃないっての。
弾が残らなかっただけマシとかさらっと言わないでよ。
わずかに顔をしかめて手当てを受けてる恋人は、ついさっき仕事から帰還したばかりだ。
珍しく重傷を負って帰ってきた美月の姿に、心臓がギリギリと痛んだ。
どうってことはないと美月は笑う。
その怜悧で綺麗な顔をほんの少し崩して、小さく笑う。
だけど、どうしたって心配するに決まってる。
いつ死ぬかわからない。
いつ失うかわからない。
それはつい最近、逝ってしまった最愛の人のために泣いた、あの人を見ているから余計に強く思うようになったことだ。
戦場に死はつきもの。
泣いてはいけない。
弱さを露わにすることは、敵に命を握られることだ。
白菊の柩を見送った日、大人の男が泣くのを見た。
ただひたすらに涙を流し続けるその姿に、俺も美月も俯いて目を伏せた。
失うことが恐ろしい。
初めて思うそれは、大切なものが出来てこそ感じる苦しい感情。
これが愛だというのなら、愛ってやつはどうにも辛くて苦しいものだ。


「……煉。何て面してんの、」
「だってさー」
「俺のがあんたよりずっとそういう思いしてんの」


だからたまにはそういう思いしとけ。
なんて不機嫌に言ってそっぽを向いた美月は、包帯で固定された肩を不服そうに動かして象惟医師に咎められている。
ほんと、そんなこと言われたら都合よく解釈しちゃうってわかってんのかな。


「美月…ちゅーしていい?」
「せんせー、先輩がセクハラします」
「医務室で盛るなよ」


これが愛だというのなら、心配に身を焦がすこの毎日も、ほんの少し良いもんだと言えるのかもしれない。
そんな風に思うのは、これも惚れた弱味から。









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