ガブリエッラに花束を
花は美しい。
雨は神様の流す涙。
ちっぽけな人間を取り囲む壮大な世界。





高頼八知にとって麻井颯汰という人間は、全く理解不能な生き物である。指導する立場としても仲間としても、どこか浮き世離れした麻井の思想には頭が痛んだ。
花は美しいと神聖視している。死体の臭いを放つ花すら、麻井にとっては美しい花だ。雨が大気中の塵芥を含んで降り注いでいることを知りながらも、カミサマの涙だと公言して恥じない。
全くもってただの思い込みだ。
人間嫌いだと公言するが故の、過剰な美意識の塊。一体いつからそんな信仰じみた思想を持つようになったのか高頼には知る術もない。
咆哮を上げて、リボルバーが煙を上げる。赤い飛沫がわずかに跳ねて麻井の頬を汚した。酷く不快そうにそれを拭った手で、弾丸を再装填する動作は手慣れている。
普段の彼からは想像出来ないほど冷酷な表情で引き金を引く姿は、信仰心などとはかけ離れていた。麻井が行っているのは作業だ。選別し淘汰する。淡々と滔々と、そこに感情は一切ない。
「軽蔑しますか。そんなはずないですよね、高頼さんも同じことをしているじゃないですか」
不意にこちらを見据えてそう言った麻井に、高頼は何も言えず頭を振った。
指先が引き金を引く。腕に伝わる振動と鼻につく血の匂い。
それはとうに慣れてしまった死の匂いだ。
「神様なんてもんがいると思うか」
「……さあ、強いて言えば、それは人間じゃないでしょうね」
地面に散らばり落ちた薬莢を爪先で踏みしめた麻井の姿に、高頼はそれもそうだと肩をすくめた。








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