手を取る先に
死を目前に彼は笑った。
それは未だ未練がましく死刑執行を躊躇する元相棒、現執行人を嘲笑っているようにも思えた。
未来を透かし見る能力は、奇異で奇特。故に、貴重で危険だ。


「何故、」
「……」
「何故、迷う?」
「……」
「躊躇う必要などないだろう」


笑う。嗤う。
その藍色は、徹頭徹尾最後の最期の瞬間まで笑い続けるのだろう。
何せ彼には未来が視えている。自身の最期など、疾うに見飽きているのだ。
ならば彼は、死を恐れる事が無いというのか。
また、彼が笑う。


「それとも何か。あんた助けてくれるのか」
「……怖くはないのか」
「ああ?」
「無に帰すということが、死ぬことが怖くないのか」


きょとんとした表情をして彼は瞬きを繰り返し、やがて小さく頷いた。


「怖いことなんかない」
「何故?」
「俺が今この場で死なないとわかっているからだ」
「……」
「もっと未来までと言えば話は別だが」


ということは。
それはつまり、執行人の思考も精神も全て鑑みたうえで、この後の行動も予想している……否、視えているということだ。



(なあ、相棒?)


その唇が微かに動いて呟いた台詞にどくりと心臓が鳴った。
不敵な笑みに苦笑が漏れる。



ああ、敵わないな。



「一緒に逃げよう、相棒」
「……歓んで」









手をとったのはどちら






戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -