人が人になるための五つの条件
好き好き好き、大好き、好き、愛してる愛して?ねえ、ねえ。好き、ね、だからさ。お前とならね、ちゅーもセックスも全然嫌じゃないよ。いつだってオールオーケー。俺妊娠しないしゴム要らないし、まあまあ優しくしてくれりゃあ、そこそこある程度のプレイには付き合えるよ?痛いのはやだけど。だからとりあえず、今はちょっと抱いてくれよ。悪いようにはしないからさ。なぁ、梅。



人が人になるための五つの条件




駄目?と公衆の面前で恥知らずな台詞を言いきった同僚に、木島はううと呻き声を上げた。
黒い双眸をひたとこちらに向けて、シルバーでごてごてに飾り付けられた宮の手が木島の頬に触れる。銀製品特有の冷たさに、ぞくりと背筋が震えたのと同時に宮がくすりと妖艶に笑う。
宮とは言うなれば昔馴染みの腐れ縁だ。大方、同じような生活をしてきたし、共通の友人も少なくはない。伊東も生野もその手の知り合いであったし、同じ管轄に配属された頃からずっと交流がある。だから、木島は宮という男がどういう人間かよく解っていた。
「……宮、」
「梅、嫌いになった?」
「は?」
「俺のこと、今そうゆう顔してるから」
解っていると思っていた。
悲しげな目を向けてくる宮と正面から顔を合わせて、ただならぬ雰囲気に部屋から出て行く他のメンバーの気配を感じる。
この場にいるのはまぎれもなく、木島と宮、二人だけだ。
「ごめんね梅。俺はこうゆう性格だから、こうでもしなきゃ言いたいこと言えないの」
「知ってるよ」
「知ってる?」
「何年一緒だと思ってんだ」
「そうだね。でも、梅は、俺がこんな風に考えてたなんて知らなかったでしょ?」
知らなかったと素直に頷けば、苦笑が返される。頬に触れていた宮の手が頬骨をなぞって耳に触れた。指先が耳殻を辿り耳朶を擽る。
冷たい指先だ。
この指先で引き金を引いて、誰かの熱を奪うのだと思い至って木島は無性に彼を哀れに思った。愛撫するように添えられた宮の手を掴み、ぎゅうと力を込めて握りしめる。
宮は驚いたように目を見開いて木島を見つめた。
「……何?」
「宮。明日も明後日も、俺達はずっとこのままだよ」
「は。それって、一生友達でいましょってこと」
「みや、」
「いいよ。気にすんな。わかってたし。だから、いいや」
清々しいほどの笑顔で宮は手を引いた。つい離してしまった冷たい指先は、彼のもう一方の手で押さえられている。
「寝る」
「おい、宮」
「察しろよ莫迦。俺だって人間だ」
心くらい人並みなのだと言い捨てて木島に背を向けた。
おやすみ、と呟いて立ち去る後ろ姿に妙な罪悪感がじわじわと木島を犯している。
全く、つまり自分達は未だ人間であるらしいと木島は小さく息を吐いた。




部屋を出ると生野が居た。
何だこいつさては盗み聞きか趣味の悪い。
文句の一つでも言ってやろうと口を開きかけるが、生野の方が幾分早かった。
「駄目だよ宮。梅には春がいる。五年前あいつの心毎持って行っちまったんだ。だから梅の心は春近に囚われたままさ」
訳知り顔でそう曰った生野の腹に一発キメて、知っていると呟いた。


知っている。あいつには勝てない、






木島梅
宮原路一
生野陽生
伊東春近




お題元:幽繍



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