「だから、あとべはおれにどうしてほしいの?」
雨の音が遠くに聞こえる。部屋の外と中じゃ世界が変わる。外は、凍えてしんでしまうくらいなのに。家の中は、絶えずついている暖房の力で暖かい。
おれのからだよりもでかい窓。その窓の前に座って降ってくる雪をただぼんやりと眺めていた。
「(ゴミみてえ…。)」
あとべの家は床暖房が完備されている。だから尻があったけえし、おれのよこでうつ伏せに床に突っ伏して寝っ転がってるあとべもあったけえだろう。さっきまでうだうだなにか言ってたのに、ぴくりともうごかないから、寝たのかとおもって呼んでみた。
「あとべ、」
あ、うごいた。けど、肩が跳ねただけで、顔は突っ伏したまま。んだよめんどくせーな、いっちょまえに傷ついてんのかよ。
「おれは、あとべがおれに望んでるようなことはやってやれないよ。」
「……わかってる。」
もそもそとこもった声が聞こえた。あとべが、またお見合いするんだって言ってからずっとあの体勢。毛足のながいじゅうたんはふわふわしていて気持ちがいいからおれもよく転がってるけど、あとべには似合わない。なんか、負けたみたいで、おれはいやだ。
「おれはおまえのこと大好きだし、一緒に生きていきてえとも思うし、なんなら養ってやるよとか思ってるし。」
「……ああ、」
おれより暗いけど、さらさらの金色をやさしく撫でた。あとべと一緒に生きていきてえのはほんとう。大好きだってのも、養ってやりてえのも。でも、
「おまえが思い描いているようなことはしてやれない。」
たとえば、お見合いの場をぶち壊したり。それとか、いますぐあとべを連れ去って駆け落ちとか。ほかにもあるだろうな、あとべの小難しいあたまの中には。
「わかってる、」
「うん。」
「わかってるけど、……思うようにはいかないな。」
ようやく顔をあげたあとべの表情に、眉が下がる。ついでに目尻も。つかれたみたいな、かなしい笑顔。かなしいのは知ってる。おれだって、こんなひねくれたことしか言えないおれだって、かなしい。
「ね、あとべ」
その先に続く言葉はまだ言えない。