雨の神様跡部とジロー
雨。さっきまでは全然へーきだったのに、急に降りだしてきた雨。梅雨はもうすぐ終わりそうってのに、さすがの俺でもこれはやばいと直感し、急ブレーキであわてて右折。飛び込んだちっさい神社の境内は人がいなくてしんとしていて、雨宿りする俺だけちがう世界に行ってしまったみたいだった。
そろそろ行こうかな、と空を見上げる泣き止まない空はさっきより色身を取り戻してきたし、いけそう。そう思って踏み出そうとした足は、別の誰かに引き留められた。
「濡れるぞ、坊主。」
振り向いたら今まで誰もいなかったはずなのに、きれいな、俺と同い年くらいのやつが立っていた。
「坊主って、おめー俺と同い年くらいじゃん。」
「ばあか、人は見かけによらねえんだよ。」
あとべ、どんな漢字かはわかんねえけど、そいつはそう言った。
「雨宿りか?」
「うん、あとべは?」
「……俺は、雨を見てる。」
変なやつだった。雨を見てるって。白い、よくわかんねえけど昔の人が着るような服と、灰色の髪。目だけが、ちっさい頃に宝物にしてたビー玉みたいに真っ青で、色を知らないあとべが、たったひとつだけ持っていた色だった。
「なあ、また会える?」
雨が止みはじめた。さっきまであんなに打ち付けるように降っていた雨は力を弱め、虹がかかっていた。
立ち上がって、屋根の下から一歩を踏み出す。振り向いて、あとべに聞いた。
「梅雨の間はな、」
「え、梅雨もうすぐ終わるC、会えねえの?」
「……おまえにそっくりな俺の知り合いがな、今年ははやく目を覚ましたんだ。太陽みたいにあったかい、本当におまえにそっくりなやつ。」
あとべは空色の目を悲しそうに伏せてしまった。ながいまつげ。雨は、完全に止んだ。
「もう、夏が来る。だから、俺の仕事はおしまい。」
「ねえ、それってどういうこ、」
ぴちゃん、屋根から落ちた雨垂れに意識をやった刹那。あとべは、目の前から消えた。