知恵遅れでお人形しか遊び相手も話相手もいないしょたべたん



扉には鍵がかかっていた。

それは元から備え付けられていた鍵と、後から付け足した頑丈な錠前。

大事なものには鍵をかけておくけれど、これは違った。出てきてしまったら困るから、だからこんな、外すことが面倒になる程の鍵をかける。こんなことをしなくても、賢いあの子は出ていかないだろう。

思いを巡らすうちに、最後の鍵があいた。かちゃん、という音に振り向いたあの子は、しあわせそうに表情を緩め綻ばす。ともだちだ、と自慢していた人形を放り出してこちらに走ってくるさまは残酷だ。


「てづか!」

「走ると危ないぞ、」

「あぶない?」

「転ぶ、ということだ。」


足元にまとわりつくこの子を抱き上げる。年の割に小さな体は軽くて、胸の奥が痛い。耳元であげられる楽しそうな悲鳴。彼を抱えたままベッドに腰かけた。



広い、窓のない六角形の部屋。あるのはベッドとソファ、チェストにテーブル。あとはおびただしい量のおもちゃだけ。それがこの子の世界だった。
こんな部屋に、ずっとひとりで。しかし彼にはひとりぼっちという概念はないのだろう。自分と、俺以外の人間を見たことがないから。


「てづか、てづか。」


彼は意味もなく俺の名を呼び、胸に顔を埋めることをよくし、好んだ。それは子どもが親に甘えるという行為で、なんら不自然なことではない。

ぼんやりと、そのあたたかい背中を撫でていたら、景吾は跳ね上がるようにして膝の上から飛び降りた。


「景吾っ?!」


無造作に床に捨て置かれたおもちゃたちが俺を責めているかのようにみつめる。刺さるような視線、感じることなどないのに。


景吾は少し駈けたあと、先ほど放り投げたともだちを拾い上げた。彼の行動は突拍子もなく、予測不能だ。


「てづか、もういらない。」

「は、」

「もう、いらない。」


無理矢理俺にもたせたともだち。景吾はその青い瞳で一瞥したあと、手近に転がっていた人形を拾い上げていた。まるで、それが次のともだちだとでもいうように。


「てづか、あそぼ、あそぼ!」

「あ、ああ。」


膝の上にもう一度乗り上げた。左手に持った人形は、悲しげに泣いていた。


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