にょたべ




ばしゃばしゃと泥水が跳ねる。お気に入りのブーツだったのに、泥水がにじみこんで最悪。
コートだってスカートだってブラウスだって、お気に入りだったのに。

踏み出した足は盛大に水を跳ねさせた。





狭い路地裏はなんだか臭い。ぱしゃり、ぱしゃりと水を小さく跳ねさせていた音に混じって聞こえる喧騒。いやに発達した目と耳ではすべてを拾い上げてしまってわずらわしい。


「ああもうめんどくせえ、」


次の角を曲がったら、あいつら纏めて潰してやる。土地勘は自分のほうがあるし、……ただの人間に殺されるなんて柔な真似、冗談じゃない。私は、まわりとは違うから。

もうすぐ目的の曲がり角、ひらりと翻した体は、何か大きな障害物と正面衝突。弾かれて、泥水溜まりに突っ込むと思った体は、しっかりと何かに捕まれて大事には至らなかった。


「前見てないと、危ないよ?可愛いお嬢さん。」


夜空に輝く月よりも明るい色彩を持った髪と、軟派な口調。私の嫌いなタイプの男。どうせぶつかって、…こんな漫画みたいな展開になるんなら、もっと王子様みたいな人にぶつかりたかった。……例えば、もっとアジア人みたいな色彩を持った人とか。アジアの色は、珍しいから。


「ちっ…、」

「ええっ舌打ち?!酷いよお嬢さぁん〜!」

「うるせえな…。ぶつかって悪かったな、私は行く。」


オレンジ頭の隣をすり抜け、先を急ぐ。こいつのせいで興が削がれた。もう人間を潰そうなんて気が、起きやしない。足早に歩いていたはずなのに。


「……何しやがる。」


くん、と引かれた右手にはオレンジ頭の手のひらがしっかり巻き付いていた。


「なにって、急いでるんでしょ?」


助けてあげる。


その言葉と覗き込まれた瞳。ふわりと体が宙に浮いた気がした。


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