殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す
殺す

俺は悪くない。
俺は正しい。
なぜなら放っておけば、アイツは汚れてしまうのだ。

アイツが汚れてしまうということは、同じひとつ屋根の下で暮らしている俺も汚れてしまう。それだけならばまだ、いい。
だが暮らしているのは俺だけではなく、それはつまり親父やお袋までも汚れてしまう。

それはダメだ。絶対にダメだ。
避けねばならない事態だ。
だから俺がアイツを綺麗にしてやるのだ。
だから俺は大嫌いな暴力を使う。
望まぬ拳を奮う。
俺は悪くない。
俺は、
俺、は――――



「まったく君も飽きないねぇ…」
「あぁ?」

不意に耳に入った声に(思うに随分長々と話しかけられていたような気もする)俺は意識を正面に向けた。

「あ、ホラ動かない!じっとしてじっと」

左手の甲からボールペンがずるりと抜けて血が溢れる。
淀んだその赤色にアイツの瞳はもっと透き通ってるのにと無意識で思う自分に吐き気がした。
違う。どうかしている。
アイツは汚れている。綺麗なんかじゃない。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺

頭の中が殺すという文字で埋め尽くされる。
俺は暴力が嫌いだ。
嫌いなんだ。
ああ、なのに――

「まったくさァ…曲がりながらも君の血を分けたお兄さんの彼女でしょ?」

そんな俺の頭の中を見抜いたかのように、唯一とも言える友人は溜め息混じりに俺へと視線を合わした。

「うるせェ…テメーは黙ってさっさと傷をふさげ。あと、間違ってもまた俺と野郎が血が繋がっているだなんて口にするな。次はテメェといえどぶん殴るぞ」

尻のポケットに入れた携帯が震え出した。
きっとアイツからだ。
タイミングを見計らったかのようにくるのだから腹立たしい。
きっと嬉しいと感じているのは錯覚だ。
俺は断じて嬉しくなどない。

『そんなに連絡を取りたくないなら着信を拒否すればいいじゃない』

いつだっただろうか。
アイツにそれはそれは嬉しそうに顔を歪めて言われた事を思い出す。

『……どうせ俺が拒否しようがテメェはまた違う番号使ってかけてくんだろ』
『ははっご名答』

吐き気がした。
なのに。ああなのに。
胸糞が悪くなるだけでなくどこかで胸が跳ねる自分なんて認めない。
俺は絶対に認めない。

「うわー静雄くん横暴!ていうかね、君がお兄さんを嫌いだからって、そんなお兄さんに近付く女性を不幸だって決め付けるのはよくないよ。別れろだなんて迫ってわかってもらえなくてキレちゃって?これで何人目?いい加減訴えられてもいいと思うよ、僕は」
「……うるせェ」

手際よく、クルクルと巻かれる包帯を俺は見つめた。
痛みは感じない。
言ってしまえば間違いなく俺を非難している新羅の言葉にも胸は痛まない。
なぜなら俺は悪くないからだ。
悪いのはすべてすべてアイツ。
そう、アイツだ。
アイツが汚れようとするのを俺がやめさせているのだ。
むしろ俺は褒められ、感謝されるべきなのだ。

「僕はさ、心配しているんだよ。友人として」

はいできた、そう言って新羅が手を離すのとどちらが早かっただろうか。
保健室の扉がガラリと開く。

「やっほーシズちゃん。迎えにきたよ。おや新羅くん!いつも弟が悪いねぇ」
「…いいえ、お気にせず」

愛用のファーコートで現れた辺り、今日はどうやら高校へは行かなかったらしい。
呆れた野郎だ。
しかしそうしていられるのも今年までだクソノミ蟲。
来年からは俺も奴と同じ高校に通う。
サボるだなんて俺が許さねぇ。

「………頼んでねェ」

言いながら自然と頬が緩んだ理由を俺は考えてなどいなかった。
否、考えてはいけないのだ。
考える、必要がない。

「まったく、シズちゃんたらいつまで反抗期なのかな?いい加減俺も傷ついちゃうなぁ」

保健室一杯に広がる臨也の匂いに目眩がした。
俺は奴が無遠慮に肩に置いたその手を叩くと、新羅に礼を言うことも忘れて廊下へと飛び出した。










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