3限目の多目的教室のあるこの棟には今日も誰の気配も感じない。それもそうだ、なにせここは俺御用達の絶好のサボりスポットなのだから。
両手に持った紙袋にはギッシリと、それはもう紙袋が破れてしまうのではと言わんばかりにチョコレートの箱、箱、箱。考えてみれば小学生の、それこそ幼稚園に通っていた頃からこの日はチョコレートに不自由したことがない。その数は年齢を重ねる毎に増しているのは間違いなく、中学に上がる頃からは常にこの日は紙袋を最低4つはわざわざ持参している程だ。
これはいつの頃だったかに、貰ったそれらをこうして丁寧に持ち帰る俺を見た新羅に大層気味悪がられたが、どうやら新羅の中では、俺は貰ったチョコレートを片っ端からゴミ箱へ棄ててしまうようなイメージがあったようだった。全く失礼な変態だったよなぁと、俺は紙袋の中から1つ適当に取り出した可愛らしい装飾を施されたそれを躊躇なくビリビリと破き、中のチョコレート(これはトリュフだった)を口にひとつ放り微笑んだ。ちゃんと一口食べてから棄てているのだから、ねぇ?

そうして貰ったチョコレートのお返しにとその子一人一人の趣味に合ったものをホワイトデーに返すのがここ数年の俺の愉しみだった。そこから俺に心酔して駒になってくれる子もいれば、彼女にと迫る子も勿論いる。それをどう上手く裁くか、というのがとても良い暇潰しなのだ。
しかしまぁ今年はなんというかそれが面倒くさいと感じている自分がいることも確かで、その理由になんとなく気付いている自分もいるが俺はそれを認めたくない。更に悪いことには先程渡り廊下で不運にも見かけてしまったその現場だ。

(嬉しそうな顔、しやがって――――)

いつものようにあの忌々しい怪物くんの相手をしていれば女子生徒も俺に近寄り憎いだろうと今日はがりは奴の存在を無視してやっていたというのに。

「やっぱシズちゃん死なないかなー…」

顔を赤くしているあの様には自分でも驚く程に殺意が駆り立てられた。まぁ万が一にでも"彼女"なんて出来てしまった日にはその後二度と"愛して側に置く人間"なんてものを作ることに後悔させてやる準備はこちらにいつでもある。化け物は化け物らしく、孤独の中で暴れ恐れられていればいいのだ。

本日何回目かもわからないチョコレートの味を噛み締めながら俺は携帯を取り出した。
コールが鳴る。2回、3回、4回。どうせ真面目に授業も出ないでクサってるくせに。さっさと出ろ、なんて苛立ちが伝わったのか7回目のコールで漸く相手へと繋がり俺は口を歪ませる。

「やぁ、君たち今日を血のバレンタインにしてみないかい?」

ごめんねシズちゃん?化け物に安息なんて必要なかったよねぇ。




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