他人の色恋沙汰などに大して興味はない｡また強いて言えば自分の色恋沙汰にも特に興味がない｡
だから今朝下駄箱を開けてまず目に飛び込んだ可愛らしい包みを見て､ああそういえば今日は２月の１４日だったのだなぁと思い出した｡つまりその程度でしかない｡
これはつい先日､臨也が指摘していたことだが"仮にも口に入れる物を便所などでも履いている靴と一緒に沿えておくのは果たして好意を寄せている者にやることなのだろうか？"というそれは強ち間違いでもないのかもしれない｡直接ではないにしろ､正直こうしてバレンタインにチョコレートを貰えたのは久方ぶりだが､成る程確かに衛生的によろしくないのは確かである｡しかしだからと言って決してチョコレートを貰ったこと自体が不快なわけでもなく､こうしてわざわざ今日の為にこれを作ってくれた顔も知らないその人を考えると少しばかり胸の辺りが熱いようなむず痒いような気持ちになる｡沿えられたメッセージカードの名前はやはり知らないものだったが､春休みに入る前にでも何か返すべきだろうなと一人ごちると俺は教室へと向かった｡
なるほど教室も毎年この時期独特の男女共に浮き足だった雰囲気は､きっと下駄箱にチョコレートが入っていなかったにしろ今日がバレンタインであるということを思い出させてくれたことだろう｡
「静雄？」
「…はよ」
見れば珍しくも教室には静雄がいた｡常であれば何かしら朝から喧嘩をしているものだが(それは相手が臨也だったり他校生だったりする)今日はそれもなくこうしているということは､臨也なりの"嫌味"な配慮といったところだろうか｡
そういえば臨也は去年､まるでそれはもう漫画や小説の中でしか見たことのないような数のチョコレートを女子生徒から貰っていたなと俺はふと思い出す｡まるで何を考えているのか全くわからない奴ではあるが､もしかしたら今日は女子生徒の対応に重きを置いているのかもしれない｡
チラリと静雄を見れば欠伸を噛み締めながら気怠けに珍しく携帯を弄っていた｡そういえば静雄も臨也に負けず劣らず丹精な顔立ちをしているのだが､如何せんそのキレやすい性格と人並み外れた怪力のせいで全くモテるそぶりがないのだから勿体ないなと俺は密かに思っている｡キレやすい､というその一点を覗けば静雄は優しくその名の通り物静かな男だ｡
そこまで考えていると不意に俺の斜め後ろに座る静雄からの視線を感じては不思議に思い静雄を振り返る｡
「どうした？」
「なぁ､門田､」
振り返った先の静雄の顔には先程は気付かなかったが､うっすらと目の下に隈が出来ていた｡