科学の力、というか新羅の力、とでも言うべきだろうか。
まぁ確かに?
俺は確かに言ったかもしれないよ?
奇抜なことでもしなきゃ人が呼び込めないとはさ。
しかしこれは違う。断じて違う。

「せ…先輩…そ、れ」
「あー…うん、とりあえずお引き取り願えるかなぁ」

やはりと言うかなんと言うか、そんな俺の言葉など全く耳に入っていないらしいシズちゃんは、目の前で間抜けに口を開けて立ち尽くしている。
なぜシズちゃんまで来ているのか正直戸惑ったが、まぁそれはきっと新羅のクソ眼鏡が呼んだのだろうと俺はだいたい当たりをつけた。というか確実にそうだろう。
しかしこれは余計に参った。
なんだってこんな間抜けな様を後輩に―――

「折原先輩…うさぎ人間だった、んですか?」
「…そうきたか」

さっすがシズちゃん、発想も斜め上をいくんだから違うよね!俺が見込んだ後輩なだけはあるねやっぱお前バカだ!

「だって…それ…」
「ああ…これね」

俺は思う。ああ、これが夢だったらどんなに良かっただろう、と。だいたい何が悲しくて真っ裸でシズちゃんと対峙しなくちゃならないんだろうか。
だってそうだろ?

「きゃーシズちゃんのえっちー」

もはや前を隠すことすら億劫で、何の抑揚もなくそう告げれば何を間違えたのか途端にシズちゃんの顔が赤くなった。
オイナンダソノ反応マジ気持チ悪イ。

「それは先輩が全裸で出てきやがるから!!!!」
「いやまぁ扉開けたのは君だけどね。鍵かけてなかった俺にも落ち度はあるけど」
「っじゃあ、その…み、耳はななんすか!!!!」

そう、ただの全裸ならまだよかった。

「これね…」

萎えきった俺の思いを代弁するかのようにヘタリと倒れた耳を俺は撫でながら泣きたい気分でシズちゃんへと告げる。

「耳だね、うさぎの。ついでに尻尾もついてるんだよ、ほら凄いだろ?」
「な、なんだそりゃあああああああああ!!!!!!!!!!」

半ばヤケクソで尻に不釣り合いに"生えた"尻尾も見せてやれば、長期休暇を目前に控え閑散としだした大学構内の一角にシズちゃんの声が木霊した。
腹の底からリアクションをどうもありがとう。ビリビリと鼓膜までもが通常以上に揺らされて、どうやら聴覚までうさぎ並みになってしまっているらしい。
ああ…耳が痛い。


※※※


「新歓の目玉ァ?!」
「そ、新羅の奴がね。ホラ、なんたってこの同好会部員が3人だし存続自体怪しいからってね」

とりあえず尻尾が邪魔して下着もズボンも履けない為にシズちゃんのパーカーを拝借し、下半身モロ出しという変質者顔負けの格好に落ち着いた俺はため息混じりに未だ落ち着く様子のないシズちゃんへと説明した。
そんな俺らがいるその部屋は、扉には化け学同好会というなんとも胡散臭い張り紙がなされている。そう、これが新羅が代表を務め、俺が適当に名前を貸し、何を間違えたか昨年の春に唯一の新入部員として加わったシズちゃんの3人で細々と活動としているれっきとしたサークルなのだ。
ちなみに10人以上集められないこのような非公認のサークルは本来ならば活動場所すら与えられないものなのだが、そこは俺の腕の見せどころであり、学生会本部にあるパイプを使って上手いこともぎ取った部室である。まぁなんでそこまで肩入れしているかといえば、何も中学からの腐れ縁の新羅を手伝いたかったわけでは勿論ない。ただ大学内に寛げる場所が欲しいなぁという軽い気持ちでやっただけであることを強調しておこう。

「で、でででもそんな…!!!」
「あー…ストップ、シズちゃん。机にヒビが入ってる」
「あ、す、すんません!!」

だがしかし。こうして結果的に出鱈目な怪力を持つ後輩に出会えただけでも手を貸して良かったかもしれないと最近では思っているのも確かだった。なにせ今だってシズちゃんが勢いよく下げた頭が致命傷となり、こうしてまた1つ学校の備品をダメにしてくれた。うん、君は本当にミラクル怪力野郎だよ。

しかしそれにしても先程からシズちゃんは妙に落ち着かない。まぁ、俺と2人っきりな時点で落ち着いてるシズちゃんなんてもう何ヵ月も見てないのだけれど。

「………岸谷先輩はどこに行ったんですか?」
「あー…それがなんか俺も呼び出されて来たんだけど肝心の奴がいなくてね。で、何の気なしに置いてあったジュースを飲んだら身体が熱くなって服は弾け飛んでこの様」
「な…るほど」

まぁ俺が思うにきっと新羅は被験者は俺、もしくはシズちゃんどちらでも良い、と考えていたのだろう。
そうしてこの現状を俺らが冷静に受け止めた頃合いを見計らってやってくる算段であるといったところに違いない。まぁ許してなんかやらないけど。とりあえず眼鏡を叩き割る位はさせてもらわねば気が済まない程度には腹が立っている。

「まぁ確かに奇抜なことでもしなきゃ新歓で人なんか呼び込めないとは言ったけどさ。いくらなんでも…ねぇ?」

そうして新羅への報復に思いを巡らせつつ、机を叩き割った襲撃でシズちゃんの額から絶えず流れる血をぼんやり眺めていた俺は、これはないよねと同意を求めようとシズちゃんの目を見るも素晴らしい早さで目線を逸らすシズちゃんにいよいよ最近抱きつつあった疑念に対する核心を深めていた。

「あ、あの折原先輩」
「うん?」

目線を右へ左へと泳がせるシズちゃんは、俺より10センチ近く身体がデカいというのに中々可愛く感じるのだから俺も末期なのだろう。まぁ俺そっちの趣味は断じてないけどね!なんて言い訳は今更なのだろうか。強いて言うなら大型犬を愛でる、そんな感じに近い。

「そ、その耳…触らせてもらっても…いいっすか?」

そんな俺の気も知らず、顔をトマトの如く赤くしたシズちゃんが動物、特に小動物の類いが大好きなのは既に知ってはいたが、その無駄な緊張ぶりは間違いない。

「ああ、うんどうぞ」

恐る恐るといった様子で手を伸ばしてくるシズちゃんに俺はにこりと微笑んでみせる。あ、肩が揺れた。うん、シズちゃんやっぱり君わかりやす過ぎるんだよ。

「ふ、ふわふわっすね」
「まぁ確かに手触りはバツグンだね」

そっと耳を撫でるその手に目を細めながら、未だ額から血を流すシズちゃんに下半身モロ出しのうさぎ耳の俺というのは中々シュールだなぁとふと思う。どうやらシズちゃんはうさ耳が相当にお気に召したのか、いつの間にか両手で耳を触り始めていた。

「そんなに俺のうさぎ耳が気に入っちゃった?」

言えば瞬間見開かれた目に気をよくして、俺はそっとその首に腕を回してみせた。冗談にしてはやり過ぎな気もしたが、なにせ奥手なシズちゃんだ。どう反応してくるのか妙にからかいたい気持ちが膨れ上がり、首に回した片方の手でそっとシズちゃんの髪を掬って撫でてみせる。

「せ…んぱい?」
「ねぇシズちゃん、」

だって君俺のこと大好きだもんねぇ、なんて耳元で囁いてやれば笑える位に首までシズちゃんは赤くしてくれた。俺はといえばその様子に大いに満足し、さて悪ふざけもお仕舞いにしようかなと乗り上げたシズちゃんの膝から退こうとするも勢いよく肩を掴まれてしまうのだからどうしようもない。ああこれは間違いなくやらかしてしまったんじゃないかなんて冷や汗が背中をつたうのを感じるにはどうやら遅すぎたようだ。
もしかしてこれ俺新しい扉開いちゃう感じ?マジで?

「折原先輩…俺…」
「ちょ、あー…」

どうしようもないイケメンが眼前いっぱいを覆うのを見て、いよいよまずさを自覚したと同時に今回の元凶が扉を開き飛び込んできてくださるのだからやはり新羅は侮れない。

「はいはいはいはい校内で不純同性交流はやめてねー」
「え、あ、おおおおお俺!!!!!」

そうしてシズちゃんが顔を真っ赤にしながら断固として新歓でのうさ耳披露を新羅に反対するのを眺めながら俺は思うのだった。
早くパンツが履きたいと。

不覚にも上がってしまった心拍数には、気付かないふりをすることにした。





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