AM6:30
そういうわけであまりに虚しく寂しくなった俺はクリスマスイブ早朝に、東京を飛び出した。
新宿にいれば目と鼻の先でシズちゃんが俺ではない誰かとそれはそれは楽しいクリスマスイブやらクリスマスを過ごした後にうちに寄ってくれるんじゃないかといういらない期待をしてしまいそうだからだ。
我ながら本当にバカだと思うが仕方ない。

生憎飛行機や新幹線は予約で埋まっており(ちなみにバスという選択肢は俺の中にない)俺はタクることに決めた。

「仙台までお願いします」

駅前で適当にタクシーを拾いそそくさと乗り込む。
ちなみに場所のチョイスに深い意味はない。
しいて言うなら先日波江さんが何かの雑誌の牛タン特集を見ていたから、というところだろうか。
お土産に買って帰ってあげたらちょっと位は感謝してくれるだろうかなんて考える俺は本当に部下想いだ。

「イブだっていうのに朝から大変ですね。お仕事ですか?」

一瞬運転手に対して殺意が沸いた気もしたがグッと堪え、俺は穏やかに笑ってみせる。

「まぁ、そんなところです」

そうして俺は腫れ上がった目を隠す為にかけていたサングラスを外すと俯き目を閉じた。
起きる頃には着いていればいい。



PM23:17
トムさんやヴァローナや社長と一緒に行ったささやかなクリスマス会は満足の下お開きになった。
途中ヴァローナに絡んできた隣の席の客をうっかり殺しかけたりもしたが、それ以外では特に大事もなく、またこの面子で飲みたいものだと俺は密かに頬を緩ませる。

「今年は男所帯なむさ苦しいクリスマスになんなくて良かったなぁ」
「そっすね」

最終的に社長が完全に酔い潰れてしまい、ヴァローナを先に帰したトムさんと俺は2人で社長をタクシーを捕まえ自宅まで送る羽目になったが、奢って貰っていたし普段のことを思えば苦ではない。
無論サイフは社長のものを拝借させてもらったのだが。

「今年はホワイトクリスマスは無理そうだなぁ…」
「あー確かにそっすね。2年くらいはなりましたけどね」

おおさむとマフラーに顔を埋めるトムさんはほろ酔いで、足取りがどことなく軽い。
俺はあまり酒に強い質ではないし、潰れてしまえば迷惑がかかると思いあまり飲むことはしなかった。
サワーを1杯、それで調度いい。

「じゃあ静雄、俺ちょっと寄るとこあっからここで解散な」
「っす」

じゃあなと手を上げたトムさんはどことなく嬉しそうに感じるのは気のせいだろうか。
もしかしたらこの後また誰かと会うのかもしれない。

『明日のシズちゃんの予定は?』

ふと歩きながら俺は昨晩の臨也とのやり取りを思い出した。
まさかとは思うが、もしかしたら奴は俺とクリスマスを過ごしたかったのだろうか。
………………いやねぇな。
携帯越しの臨也は別段悲しがるわけでもなくむしろハイテンションだった。
おそらくクリスマスに予定のない俺をバカにしたかったとかなんとか。どうせそんなところだろう。

(ざまぁみやがれ)

正直なところ俺は臨也を抱いていた。それこそ何度も。
けれど池袋で見かければ相変わらず殺したくなったし、そのくせメールや電話がくれば無視することが出来なかった。
その理由を考えるのが俺はひどく嫌だった。
会いたいと言われれば会いに行く自分やキスを仕掛けてくるアイツの唇に夢中になる自分など到底認めたくなどない。
気紛れ。
そうこれはただの気紛れなのだ。

「……………っくそ」

気付けば足は住み慣れたアパートではなく、新宿へと向けられていた。

うぜえ
うぜえ
うぜえ
うぜえ

『毎度毎度ドア壊されるのは迷惑だからね。これでも使って入ってくればいいよ』

右ポケットにいつからか常に入れたままの鍵を俺は無意識に握り絞める。
そうだ俺は会いたいんじゃない。
ただ折角いい気分で帰っていたのに思い出したせいでちょっと殴りたくなっただけだ。
そう、それだけだ。

自分に言い聞かせるようにして、俺は歩調を早める。
悪いのは全て臨也なのだと言い聞かせて。





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