これは最近になって気付いたことだが、どういうわけか折原臨也は月曜日はきまって朝からきちんと学校に登校するらしい。
これは本来ならば、高校生としてあるべき姿であり、月曜日だけでなく毎日そうするのが学生として至極当然のことである。

しかし折原臨也という男は、実に自由奔放で、1週間のうちに学校に来ない日は最低でも2日程はあり、来るとしても彼の前では時間割という概念は意味をなさず、昼過ぎに現れることもしばしばだった。

それでいて教師から一切注意を受けている様子は見受けられず、察するに彼のことなので教師の、下手をすれば校長や理事長までもの何かしらの弱味を握っているのどはなかろうか。
このような類の彼に関する黒い噂は後を絶たず、それでいて妙にしっくりきてしまうのだから、末恐ろしい17歳だ。

そんな彼を語る上で、切っても切り離せないのが平和島静雄だと来神の生徒であれば誰もが口にするだろう。例外なく勿論俺自身もその1人である。

どういう経緯かは知らないが彼ら2人は非常に仲が悪かった。
あれは入学して間もなくのことだっただろうか。
校庭で派手に折原臨也と平和島静雄がやり合ったのを、教室からぼんやり見たのが始まりだったように記憶している。
その一件から、校内では唯一メガネをかけた一見貧弱そうな――確か名前は岸谷、だっただろうか――を除き、2人に近付く者はほとんどいなくなったことは言うまでもない。

勿論俺自身も彼らに関わったこともなければ関わりたいとも思うことなく、このまま何の関わりもなく、高校生活を過ごすだろうと、今日というその日までそう思い疑っていなかった。


「いーーざーーやァァアアアーー!!!!!!」

そう、だからこのように、例えうっかり趣味の読書に昼休み終了のチャイムが鳴るのも気付かぬ程に没頭した結果、その校内で最も有名な相対するその2人の喧嘩現場――などと可愛らしい言葉で片付けていいのかはさておき――に遭遇してしまったとしても、それはたまたまの不運でしかなく、彼らに関わり合いを持つきっかけになるなどとはその時どうして予想できただろうか。

平和島のものとみられる地を這うような怒号に本能的に給水塔の裏へと身を隠した俺は、とにかくこの場を脱する方法はないかと思案した。
それと同時に柄にもなく緊張し、なぜ今日に限って屋上などに来てしまったのだろうかと深く後悔したのだった。

「まったくシズちゃん、君って本当にしつこいよねぇ。もう授業始まってるよ?さっさと教室に戻った方が君の為だ。あ、でもどうせ教室にいても居眠りしちゃうかその単純かつ脳まで筋肉みたいな頭じゃ例え真面目に授業を聞いたとしても話の2割も理解出来ないで終わっちゃうのかな?なら戻っても意味ないってことになっちゃうね?うーん困った。実に困った」

そんな俺の気持ちなど知るはずもない折原は、ご丁寧にも平和島を挑発するのだから嫌になる。
キィンという鈍い音がした。
おそらく折原がナイフを取り出したのだろう。
物騒なそれに俺はダラリと嫌な汗をかく。

「………言いたいことはそれだけか?臨也君よおおおおおお」

響く怒号と、それと同時に自分の横を鉄製のベンチが凄まじい勢いで通過した。
平和島が投げたと思われるそれは、そのままのスピードで屋上のフェンスを突き破り、下へと真っ逆さまに落ちて行く。
あれは間違えでなければ中庭にあるベンチではないだろうか。いや間違いなくそうだ。
そう確信したと同時に俺の緊張がピークに達したのは言うまでもない。

「あんなの持ってよくここまで来たよねぇ。君ってデタラメで俺本当に苦手だなぁ」

しかしそんな俺とは対照的に、折原臨也はまるで怯える風でも焦る風でもなく、むしろ楽しんですらいるように聞こえてしまうのは気のせいだと願いたい。
頼むからお前はもう黙れと飛び出して言えたらどんなに良かっただろうか。

これからの惨状を覚悟し、頭を抱える。
本来ならば今頃教室で平和に授業を受けていたであろう自分を考えるとどうにもやるせなかった。

「ねぇシズちゃん」

不意に折原のその声色が、ひどく変わったような気がした。

「俺としたことが逃げ場がこれ以上ない屋上に来ちゃうだなんておかしいと思わない?」
「ああ?!そりゃテメェが考えなしに必死に逃げたからに決まっ」

不意に平和島の声が途切れた。
暫しの沈黙。

なんだ?
何が起きた?

恐怖心も忘れて思わず覗き込んだその先に想像を絶する光景があった。

平和島静雄と折原臨也は俺の目間違っていなければキスを、していた。
キス…鱚?キ…ス…?

「…………ッ!」

俺が息を飲んだのと、平和島が折原を突き飛ばしのとどちらが早かっただろうか。

てっきりそのまま平和島が更にキレて怒号が響くかと思われたが、残念なことに俺は更に目を、いや耳を疑うことになる。

「……シズちゃん、最近俺相手してやんなかったから欲求不満でしょ?たまには青姦もいいかなぁと思うんだけど、どうかな」

おい何を言っているんだ折原臨也。
お前、そんなキャラじゃ、いやそんなお前らの関係じゃ、そもそもお前ら男同士だろうと叫びたかったのは言うまでもない。

「ハッ…!テメェからのリクエストだ。いいぜ、覚悟しろやこのクソノミ蟲野郎」

激昂する平和島を期待するも、見事に裏切られた俺にはもはや絶望しか残されていなかった。
それから小一時間、人生における最大のトラウマとも呼べるおぞましい光景を俺は目にすることとなったのだから。


「さて門田京平くん。君の人柄を見込んでここは2枚で勘弁してくれるかな?」

平和島静雄が去り、放課後に近付いた屋上は先程までのことがまるで嘘だったかのように静まりかえっている。
しかし悲しいかな、掠れた声の折原臨也が何よりの証拠だった。

そうして渡されたおよそ高校生の出す金額とは似つかわしくないそれを無言で突き返すと、彼は満面の笑みで言ったのだった。

「あはっ!そんな男前な君を俺は敬意を払ってドタチンと呼ばせていただくよ!」
「……それはやめてくれ」









がんばれドタチン









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