0-4
「 菫を何処に連れて行こうとしてんの 」
「 遅かったじゃないか、悟 」
片腕が無い傑の左腕には漆黒の髪を持つ少女が抱えられている。無意識に反転術式を展開しているのか傑の右腕の止血もしていてそれに対し黒くドロドロしたものが自分の中に溢れたのがわかった。
「 君で詰むとはな。家族達は無事かい? 」
「 揃いも揃って逃げ果せたよ。京都の方もオマエの指示だろ 」
「 まぁね。君と違って私は優しいんだ 」
胸板に預けられている菫の頭を優しく撫でる傑を見て高専の時を少しだけ思い出す。
アイツは昔から菫に過保護な面があったのは分かっていたけれどまさかそれを愛≠ニ言うのではないだろうか。
「 あの二人と菫を私にやられる前提で乙骨の起爆剤として送り込んだな 」
「 そこは信用した。オマエの様な主義の人間は若い術師を理由もなく殺さない。菫に関してはもしかしたらオマエを殺すかもって思ったから保険を掛けといたけど 」
「 信用、か。最期に聞きたいんだが、私が離れてから菫に何があった 」
彼女を傑から預かりその手に少し力がこもった。聞かれたらどうするかって考えていなかったわけではない。でも馬鹿正直に話すのもどうかと思う。
「 悟? 」
「 ッ、あの後…少ししたら誘拐された。それしかわからない 」
誘拐されたのは本当、それしか知らないのも本当。嘘は言っていない。
全部を知っているのは菫本人とその際あの子に干渉したナニカだけ。
「 戻った菫が言ってた。10年後に世界は変わる≠チて 」
「 へぇ…なるほど、だいたいわかったよ。それじゃコレ返しといてくれ 」
投げられた物は乙骨憂太の学生証。なるほど小学校もコイツの仕業か。
「 菫を頼むよ。絶対に呪霊にだけはするな 」
「 わかってる 」
そしたら何よりもつらいのは僕だから。
『 悟君! 傑君! 硝子ちゃん! あたしがちゃんと力の制御出来るようになったら海に連れて行って! あとねあとね、水族館≠チてところも! 』
「 いいねぇ。菫ちゃんには遊園地とかも楽しいと思うよ 」
「 人多いとこばっかじゃねぇか… 」
「 いいじゃないか。菫からのお願いだぞ? 」
「 まぁ…そうだな… 」
『 じゃ、あたし今から練習してくる! 約束だよ! 』
「 …あぁ、約束 」
20201213
誰の記憶かなぁ。
次回0巻とは関係ないけど0-5です。
この子とは何がなんでも幸せになってもらいたかったって子。