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『 なにしに来たの 』
男しかいない空間で響く鈴の様な声。
今この園田村に女性は一人しかいない。
にしても僕でも気づけなかった気配を彼女は察知したというのか。
「 陽衣おねーさんだ 」
『 アンタが雑渡昆奈門だったとはねぇ…分かってたら最初から本気で殺ったんだけど… 』
「 怖いなぁ…まぁ無事に人間に戻れたようでよかったよ 」
『 ご心配どーも 』
陽衣ちゃんは得意の投箭を手に柱に背を預け立っていた。
正気の状態だからかあの時の様に攻撃する様子は今は無い。
「 そう言えば何しにと聞いたな。少し彼に聞きたいことがあってね 」
『 へぇ…質問、ね 』
「 そう。あの時君は私ばかりでなく、敵味方を問わず怪我人を手当てしていたが…なぜだ 」
僕達の前に片膝で座り少し怖い顔で問われる質問に思わずいつもの様に言いそうになった。
けれど嘘なんて思いつかないしつこうと思えない。
だから彼の目を見て答えようと思った。
もし今何かあっても彼女がこの子達だけでも守ってくれるだろうから。
「 僕が… 」
「「「 保健委員だから! 」」」
「 …お前、忍者に向いてないんじゃないか? 」
「 よく言われます 」
『 ………ぷっ…あははっ、敵にも言われちゃったね、伊作先輩 』
剣幕な表情だった陽衣ちゃんはいつもの優しい顔になり投箭を仕舞いながら此方に近づいてくる。
空気が柔らかくなったからか伏木蔵も僕から離れて陽衣の脚へしがみついて。
「 フッ…いつかあの時の恩を返さねばと思っていた。タソガレドキ忍者隊は園田村との戦いには手を出さん。これが私の君への礼だ 」
『 そんな大事な事アンタが決めていいの? 』
伏木蔵をだき抱える陽衣ちゃんが自分も思ったことを問う。
組頭とは言えど決定権は黄昏甚兵衛であろうに。
「 いいさ。いい物を貰ったしな 」
『 ……ふぅーん… 』
そのまま去っていく雑渡昆奈門を追おうとすると左近と数馬が落とし穴に落ちてしまう。
「 左近! 数馬! っと、へっ ほっ あっ いっ だっ あっ ひあああっ!? 」
流石僕、不運委員会代表である。
『 私とある程度距離が離れてたら不運って私に移らないんだ… 』
冷静に分析しないで陽衣ちゃん。
20201221
1m離れたら最早不運は移らない。