全員出動の段 | ナノ

02



『 学園長、お待たせしました。四年い組 立花陽衣、入ります 』

「 六年い組 立花仙蔵、入ります 」

「 うむ、楽にして良い 」


襖を開けて学園長へ向けて膝を着く。
部屋の周りに人の気配は無し、居るのは私と兄さん、学園長とヘムヘムだけ。
そしてこのタイミング、普通の話ではないというのは明確に分かりきっていた。


「 先程園田村の乙名が来ておったのだが、どうやらワシらの話に聞き耳を立てている曲者がいたと立花仙蔵から聞いた。そうだな? 」

「 はい。小松田さんに捕まり追撃は不可能でしたが明らかに普通の人の動きではありませんでした。アレは忍の動きかと 」

「 うむ。そこでだ。お主ら二人に山田先生へ使いを頼みたい 」


どうやらオーマガトキ領とタソガレドキ領から印を取る役目に行った一年は組と宿題をやってこなかった組に合流して学園長の伝言を伝えに行くのが私と兄さんの役目のようで。
戦に関わるということはこれはおつかい≠ナは無く忍務≠ニいうこと。
そしてきっと伝言を伝えた後はそのまま帰ることは出来ないだろう。
最悪の場合怪我をする事もあるはずだ。


切り替えなくては。あの子達を守るために。


「 頼むぞ、立花仙蔵、立花陽衣 」

『 ハッ、お任せください 』

「 では陽衣、四半刻後に正門に 」

『 はい 』


すぐ身支度を整えある程度必要な火車剣、宝禄火矢を用意する。
そして最後に普段開けない一番上の引き出しを開けて忍務の時だけそこに閉まってある簪を手に取り祈りを込めるのが決まり事だ。今更何年も前の祈りなんて通用するのかわならないけど。


『 …お願い、あの子達から… 』


忍の卵とは言えどまだ小さな子供達の手を血で染めるわけにはいかないから。
穢れ仕事は全部擦り付けてくれていいから。
だからどうか無事でいて。
そして今は何も知らずに笑っていて。
それが私の救いになるから。


『 あの子達から笑顔を奪わないで 』


閉じた瞳をゆっくり開けて簪を懐にしまう。
もう大丈夫だ、私は今日もやれる。
そう思った時天井が軋む音が聞こえた。


『 ────なんで此処にいる 』


そう声を掛けてみれば天井から一人の男が降りてきた。
気配で分かってはいたけれどまさか本当に降りてくるとは。
昔からコイツのことは知っているが流石の私も吃驚だ。


「 …忍務って聞いたから、心配で 」

『 … 』

「 危ないことだけはしないでくれ、 」

『 却下。私がやらないとあの子達がやることになる 』

「 ~ッ、陽衣は昔からそうだ。いつも自分より他人優先で…お願いだ、もう少し自分を大切にしてくれ…お願いだから…! 」


震える手でこの男は私の肩を掴んだ。
コイツはいつまで経っても私という存在に依存して考えが甘い。
一年生の時から忍たまとして育てられた私と二年生で優秀だった此奴は元々双忍だったのだ、だからきっと幼い時の情がまだあるのかもしれない。
けれどもう五年生なんだからやらなきゃいけない事の区別もつかないんだろうか。
否、ついてはいても理解をしたくないんだろう。


此奴は優しすぎるから。


『 アンタは勘違いしてるよ、久々知兵助。私は私の為にやってる 』

「 違う! そう言っていつも自分を犠牲にしてるだけだ! 」

『 うるさい! お前はいつもいつも! なんなんだ!? 犠牲にしなきゃ守れないものがあるって事が何故わからない!? どうしていつも私を止めるんだよ!? 』

「 惚れた女がノコノコと戦の場に向かうのに止めないヤツはいないだろ!? 」

『 なっ 』

「 …行くな、とは言えない。後輩達や雷蔵や三郎が危険な所に行ってるんだから。学園長も陽衣の実力を知っているから行ってほしいって頼んだんだと思う。けど…命を投げ出す事だけはしないでほしい 」


それだけは約束してくれ、と言って肩を掴んでいた手は私の手を握る。
忍者の世界で約束なんてできるわけないだろ、此奴はバカなのか。
そう思ってはいるのにやっぱり双忍だった過去があるからだろうか、少なくとも私には情があった。
だってこんな泣きそうな顔を見るのはあの時以来だからどうしても動揺してしまう。


『 もう時間だから、離して 』

「 …あぁ 」

『 …それと、ごめん、約束は…守れないと思うから。もう色々と忘れて 』

「 … 」


襖を閉じて自分の部屋から遠ざかろうとすると微かに音が聞こえた。
きっと歯を食いしばって泣くのを耐えているんだろう。
やっぱりアイツは優しすぎる、昔から。


『 お待たせしました、兄さん…いえ、立花仙蔵先輩 』

「 話はつけれたのか 」

『 …ぅ…仲が悪いとは言えやっぱり同じ学園の仲間が自分のことで泣くのは少しだけ、嫌ですね 』

「 …そうか。行くぞ 」

『 はい 』


ごめん、兵助。
こんな身勝手な女のこと忘れてくれていいよ。
アンタまでこの業を背負う必要は無いんだ。
私を守ろうとしてくれてありがとう。

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