全員出動の段 | ナノ

01



そして早くも明けた夏休み。
他の生徒より早く学園に戻り木陰に凭れて本を読む兄さんに寄り添い目を閉じていた。
段々と他生徒の話す声が聞こえてくる。


『 騒がしくなってきましたね 』

「 そうだな…そろそろ教室に戻るか… 」

『 はい、その方がよろしいかと。兄さん、また後で 』

「 あぁ 」


くのたまでありながら唯一の忍たまである私は四年い組の教室の扉を開けると珍しくきはちが笑っていて他クラスのみきちゃんやタカ丸さんもいて。
もう少し後で戻ってきた方がよかったか、なんて思いながら一息置いて彼等に話しかけた。


『 珍しいね、きはちが声を上げて笑うなんて 』

「 陽衣、おはよう。だってね、滝夜叉丸が宿題を破り捨てたってって聞いたらおかしくって 」

「 バカだろ、滝夜叉丸 」

「 流石に破るのはよくないよね、滝夜叉丸くん 」

「 しょうがないだろう! だいたい何故この滝夜叉丸が…! 」

『 あー…他学年の宿題だったのか… 』

「 陽衣は? どうだった? 」


どうやら滝以外の三人はちゃんと自分の宿題だったらしくて。
私の腕を引いて輪に入れてくれるきはちについて行き自分の事を話すことに。


『 五年生、多分、久々知兵助の 』


私がそう呟くと今まで明るかった教室は一気に南極のように寒くなりタカ丸さんは何を考えてるのかわからない顔で、滝とみきちゃんは怯えていて、きはちは何も言わずに手を握って口を開いた。


「 大丈夫? 」

『 あぁ、平気。火薬の事だったし 』

「 いや…そうじゃなくて… 」


そこまでいうと口を閉じたきはちは握っている手に少し力を入れて目を逸らした。
五年生とは仲が悪いから心配かけたのかもしれないなぁ。


「 滝夜叉丸! 」

「 あ…五年ろ組の不破雷蔵先輩とその変装をしている鉢屋三郎先輩 」

『 ……喜八郎、私伝ちゃんに用事がある事を思い出したから一年い組の教室に行ってくる 』

「 伝七の所なら着いてくよ 」

「 …ぁ、あ、あのね! 一年は組の山村喜三太がまだ学園に来てないらしくて、その、六年の…オーマガトキ城城主のふんどしを取る…っていう宿題だったらしいんだ 」


目も向けずに教室の扉を開けて伝ちゃんの元へ向かおうと思えば不破雷蔵の口から出た言葉に思わず脚を止めて振り返った。
そんな私たちの方向を向いて鉢屋三郎が目を合わせてきて。


「 オーマガトキ城は今現在タソガレドキ城と戦の真っ最中だ。よって今から私と雷蔵、きり丸としんベヱ、左門と善法寺先輩…それと滝夜叉丸で救出作戦に向かう 」

『 へぇ。伊作先輩やアンタ達はわかるけど他の子達はなに。戦の中に連れて行く理由は 』

「 宿題をやってない組、ただそれだけ 」

『 …そ…行こう、喜八郎 』

「 はーい 」


きーちゃんが戻ってきていない、多分ミス…いや確実に失敗して囚われてる可能性が高いな。
とりあえず小松田さんは痛い目見てほしいけれど今そんなこと言ってる場合じゃない。
救出作戦に一年生や三年生を連れて行くなんて本当に助ける気があるのか学園側は。


「 陽衣、そっちは学園長室 」

『 うっ…知ってる… 』

「 伝七が待ってるよ、行こう 」

『 で、でもきーちゃんが…! 』

「 大丈夫、きっと先輩達が助けてくれる 」


優しく頬に触れた手は暖かくて我慢していた涙が溢れ出す。
私が助けに行けたら、ってここに来るまででどれだけ思っただろうか。
あの子は前の学校でいじめにあっていて、寂しがり屋で、泣き虫なのに私につらい事があればおねーちゃんって呼んでくれて。
いっそ宿題なんてやらずにプライドを選んでいればあの人達に頼らず私も助けに行けたのに。


「 あれ…ねぇ様、泣いているんですか? 」

『 ッ…伝ちゃん!? 』


可愛らしい声の方へ顔を向けるとたまたま教室から出てきていた伝ちゃんが駆け寄ってきてきはちに繋がれていない方の手を両手で握ってくれた。
小さな手で必死に慰めようとしてくれている。


「 ねぇ様、伝七はここにいます! なにかつらいことがあったなら話してください! 僕が出来ることならなんだってしますから! 」

『 伝ちゃん…ううん、大丈夫、心配かけてごめんね 』


小さな体を抱き上げて頬を擦り寄せる。
きっともう噂になっているだろうから一年生達皆が不安がってるに違いない、私は上級生なんだからこの子達に心配なんかかけている場合じゃ無いだろ、しっかりしろ。
それに不満ではあるが今の¢o忍である鉢屋三郎と不破雷蔵もいるんだ。
私は帰ってきたきーちゃんを沢山撫でて、抱きしめて、頑張ったねって褒めてあげなければ。


「 陽衣ったら宿題が五年生のでつらかったんだってー 」

「 えっ、五年生の宿題だったんですか!? 」

『 うん、でもうちには兄さんもいるし…火薬の事だったからすぐ終わらせた 』

「 わぁ~! 流石ねぇ様と立花先輩ですね! 」


今は目の前のこの笑顔を守ることにしよう。
腕の中で伝七は自分の宿題の事や夏休みの間の事を楽しそうに話してくれる。
充実した夏休みを過ごせたみたいでよかった。


「 陽衣 」

『 兄さん! 』

「 おやまぁ、立花先輩。お久しぶりです 」

「 お久しぶりです、立花先輩! 」

「 ちゃんと挨拶が出来て偉いな、喜八郎、伝七 」
《陽衣、学園長がお呼びだ》


兄さんは膝の上にいる伝ちゃんの頭を撫でながら私に目を向けて矢羽根を飛ばしてきた。
なるほど、これは二人には聞かれてはいけないなと思ったけれど、きはちは普通に兄さんの口元をガン見してるではないか。
まぁ伝ちゃんが気づいてないならなんでもいい。


『 喜八郎、伝七をお願い。私兄さんと約束があるんだった 』

「 はぁーい。おいで、伝七 」

「 ねぇ様、何処かに行かれるのですか? 」

『 ちょっとね、野暮用 』

「 ……行ってらっしゃい、陽衣 」
《気をつけてね》

「 行ってらっしゃいませ、ねぇ様! 帰ったら続きを沢山話しましょうね! 」

『 …うん、行ってきます。喜八郎、伝七 』

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