プロローグ
夏休みに入ってからずっと思っていたことがある。
毎日この教科書を開いてはため息を吐いたけれどもう残り少ない夏休み…というか最終日。
流石に自分のプライドでやらないという選択肢はいい加減に捨てなければならない。
確か今回の夏休みの宿題は個人の物だと兄さんは言っていたし、だとしたらこれは間違いなくアイツの物なんだろう、最悪だな。
『 何故…私の宿題がよりによって… 』
「 どうした、陽衣。手が止まっているぞ 」
『 っ、兄さん! 』
私の部屋の襖を開けて兄さんは微笑んだ。
その手にはお盆の上に湯呑みが二つあって。
まぁ兄さんは自分の宿題だったみたいだし、きっとすぐに終わらせたんだろう、流石兄さん。
『 あの…実は、私の宿題が五年生の宿題で、だから自分のプライドと戦ってて… 』
「 あぁ…小松田さんが混ぜてしまったヤツか。文次郎の宿題も一年生のだったらしい…って、火薬関連の事じゃないか。なら五年生の問題くらい余裕だろう? 」
『 そうなんだけれど…プライドが邪魔して… 』
自然と手に力が入り紙の一部を握りしめたら兄さんは苦笑した。
だって火薬の宿題なら恐らく久々知兵助の物だ。なんでアイツの宿題を私がやらなきゃいけないんだ。これが重要課題じゃ無ければ破り捨ててやってるのに…!
「 まぁもうあまり何も言わないが…そうだな、どうせやるなら完璧に仕上げたい。どこか分からないとこはあるか? 」
『 …ない 』
「 ……ないのか 」
『 ………うん 』
「 なら答えを埋めておけ。後で確認しよう 」
『 っ、はい! 』
頭を撫でてくれた兄さんの手は優しくて少しだけ泣きそうになった。
あの日みたいに「 大丈夫 」っていわれてる感じがして。