哀れな執着に成り下がっても
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『 人間を辞めたい 』
それが彼女の癖だった。
彼女は身体を重ねた後必ずそれを口にする。一度だけ「 どうして? 」と聞いたら『 それが分かれば苦労はしない 』なんて彼女はボヤいていた。
そして今日もまた身体を重ねる。
『 …ねぇ、勘右衛門。貴方は前聞いたわよね、どうしてって 』
一人用の布団に二人で暖をとりつつ脚を絡めた途端に彼女は口を開いた。まだ僅かに紅い頬、潤んだ瞳、全てが魅力的で素直に抱きたいと思ったがそれを言葉にしなかった自分の理性を褒めてもいいのではと思った。
『 …私は、きっと死ぬのが怖いんだと思う 』
「 へぇ… 」
『 自分から進んで忍になったのに、我儘よね 』
ヘラリ、と笑う目の前の彼女に胸が痛くなり思わず抱き寄せた。死ぬのが怖いなんて当たり前だ。特に君は女の子なんだから男である俺達より何倍も死というものが怖いに違いない。
「 なら忍なんて辞めちゃえ 」
『 ……よくそんな事言えるなぁ 』
自分だって忍のクセに、と言いつつ潤んだ瞳からは雫が溢れていた。だってキミははよく耐えたじゃないか、なんて返せない自分は如何に弱虫かがわかる。そう返せば次の言葉なんて決まっていた、それはお前もだろうと。
『 ……ごめんね、弱音吐いちゃって。私もう帰るから 』
「 まだ帰らないで 」
慌てて布団から出て服にかけたその手に自分の手を重ねた。引き止めてどうするんだ。何か言わないと。何か。彼女が此処に留まるための何かを。
「 ~ッ、あぁもう! 遠回しはやめだ! 」
『 か、勘右衛門? 』
「 、俺の苗字あげるから、そしたら忍なんて辞めちゃったらいいし! 家で子供と待ってて! はい決定! 」
『 ……それって、 』
『 嫁げってこと? 』
「 そうだよバカ! 」
唖然とした癖にそんなアッサリ嫁げってこと?なんて返されるとは思わずヤケクソになって返事をした。自分でも一生ものをこんな形でいいのかとは思ったけれど。
『 …私、忍辞めちゃっていいの? 』
「 寧ろ辞めてほしいけど 」
確かに俺と出逢ったのは陽衣が忍になる為に忍術学園にいたからではあるけれど。でも家で待っておかえりって笑ってくれた方が俺的には万々歳だ。
『 ただの女になっちゃう 』
「 ただの女じゃないよ。俺の奥様っていう立派な役職があるじゃん 」
こうして少しでも陽衣が笑ってくれるなら、少しでも楽になってくれるなら、俺は喜んでキミを助けようじゃないか。
20201120
私の中の勘ちゃんはとてつもなく愛は重いし大変そう。
なんか手に入れる為ならなんでもやりそうな予感。
正直この話は不倫ネタにするか迷ったけど、お互い可哀想だと思ってやめた…けど書きたい…
title…確かに恋だった様