08
作法室を後にして長屋へ戻る最中ずっと頭から離れないことがあった。
「 藤内、陽衣が三郎を責めてないって本当か? 」
「 こんな時に嘘なんて言いませんよ… 」
藤内の話を聞いて確証を得た。陽衣は三郎の件で怒っているわけではない。否怒ってはいるがもっと避ける理由が他にある。せめてその理由が分かればどうにかできるかもしれないのだけど誰かに尋ねるべきか? いや一番知ってそうな四年生が口を開くかと言えば絶対に開かない、彼等も陽衣の事になると彼女への利益を中心に考えるから。
「 いつか…なんて言ってると時間はあっという間に経っちゃうんだろうな 」
《 話したの、あの子達に 》
〈 ……少しだけ。悟られない程度には 〉
木の枝に凭れて目を閉じている陽衣からの矢羽根に最初は驚いたもののすぐ冷静に返事が出来た。俺は縁に座りそんな彼女の姿を視界に入れる。周りからはただいつもみたいに俺が陽衣を見ているだけに感じるであろう。
〈 ダメだったか? 〉
《 別に。いつかは話す予定だった 》
〈 藤内泣かしちゃった、ごめん 〉
《 あの子は優しいから 》
あぁ、また。誰かのせいと言わないのは昔から何も変わっていなんだ。あの子が優しいと言うがお前も十分優しいぞと思うのは俺だけだろう、勘右衛門も三郎も雷蔵も八左ヱ門も割とみんな攻撃受けてるから優しい≠ニ思う暇はないかもしれない。
《 アンタは泣かないわけ 》
〈 俺が今泣いてたら不審者じゃないか 〉
《 いいんじゃない不審者、似合ってると思う 》
あっ、今少しだけ陽衣の口角が上がった。よかった嫌とは思われてないみたいで。自分と話してて笑った彼女を見るのは数ヶ月ぶりだから嬉しいと感じるのは間違いではないはず。
《 何笑ってんの 》
〈 んー? 陽衣の顔が見れて幸せだなって 〉
俺が矢羽根を返した途端彼女は大きな瞳をパッチリと開けてその瞳と視線が交わった。こう返されるのは綾部や田村で慣れていると思ったのだけれどどうやら見当違いだったらしい、ごめん、謝るからその宝禄火矢投げないでください。
後日俺が陽衣のストーカーをしてると噂が広まり立花先輩に呼び出されたのは別の話。
20201103
仙蔵「 いつもの事だし可愛い気持ちは分かるからあまり言わないがそろそろ本気で嫌われるぞ 」
兵助「 気持ち分かるならいいじゃないですかぁ! いつもみたいに私はただ陽衣を見ていただけです! 」
仙蔵「 それを世間様ではストーカーと言うのだ、阿呆。兵太夫が言っていたが寝顔を見つめてたらしいな? あまり妹の安眠を邪魔しないでやってくれ 」
兵助「 それ兵太夫が話めちゃくちゃ盛ってるって気づいてくださいいいいい! 」
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