セージ | ナノ

06



「 って言っても、俺も詳しくは知らないんだ。ただちょっとだけ俺が知っている陽衣の事を話そうと思って 」

「 惚気なら帰ってくださーい 」

「 兵太夫は相変わらず冷たいなぁ 」


伝七も少し不満そうな顔をしていて傍では兵太夫が足を軽く蹴りつつも俺は口を開いた。
これは、俺が知ってる陽衣の噺。

陽衣と俺が双忍であったのは今の上級生では有名な話。
それと同時に突然双忍を解消したのも有名だ。
静かな雨の日の忍務の帰りに突然『 双忍は解消しよう。お互いの為に 』って言われて。
理由を聞いても彼女は『 疲れた 』『 関係ない 』等しか言ってくれなかった。
それからだったと思う、今の五年生と陽衣の関係に罅が入ったのは。

彼女は元々立花仙蔵先輩みたいにクールな優等生だけれど誰よりも優しい子で。
自分より他人を優先するから忍務で何度も助けられてはその度に陽衣は怪我をしていて、でも必ず『 兵助のせいじゃない。私が弱いせいだ 』って芯の強い瞳で言ってくるから自分を責めるに責めれなかった。
だから双忍を解消したあの日もきっと何か理由があるんだと思う。

あの日は、


「 初めて双忍で忍務に失敗した日、でさ 」

「 それで帰りに解消しようって言われたんですか? 」

「 あぁ。もう次の日から今みたいな関係だったんだけど、そこに追い討ちをかけるように三郎がやらかしてくれてな… 」


何を思ったのかその日三郎は陽衣に変装して立花先輩に悪戯を仕掛けてしまい大激怒されていた。
そこでその話が終われば良かったんだが運の悪いことに立花先輩は三郎の変装に気づけなくて。
食堂で声を掛けた陽衣の手を振り払った先輩は「 昼間のことを許したわけではないから話しかけてくるな 」って怒鳴ったんだ。


「 その時にな、嫌いって先輩が言っちゃって 」

「 陽衣先輩は巻き込まれたってことじゃないですか… 」

「 そういうこと 」


その後は大変だった。
察した八左ヱ門が慌てて三郎を連れて来たけどその時にはもう陽衣は食堂から去っているし、立花先輩の頬は紅く腫れていたし。
謝らせようとしても陽衣は学園の何処にもいなくて、


「 結局そのまま引き摺ってこうなってるんだ 」

「 ……姉さんは先輩達を避けるように忍務を次から次へ貰ってましたからね 」


藤内が淹れ直したお茶を乱太郎達の湯呑みに注いでいきながら静かに言った。
もしかしてこの子は知っていたのか、あの時の陽衣を。


「 姉さんは、あの時作法室に駆け込んで来たかと思うと声をあげずに泣いて綾部先輩に慰められてたんです。その後からはさっきも言った通りずっと忍務に行きどんなにボロボロでも止まることは無かった。田村先輩に止められるまでは 」


ポタリと雫の音が聞こえ俯いていた顔を上げると藤内は涙を流していた。



20201027


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