「どうしていー君は勉強するの?」
突拍子のないことを聞いてくるな、と思った。
すぐ隣にいる少女――――間柄としては彼女にあたる亜美は、平坦な口調を崩さない。
亜美は幼いころからの癖で、いまだに僕のことを“いー君”と呼ぶ。
人前だと少し恥ずかしい。2人きりの時だけにして、何度そう言っても亜美は聞かなかった。
「なんで、そんなこと聞くんだよ?」
「だって気になるから。いー君はいっつも勉強してる」
「落ち着かないし」
「いー君は勉強が好きなの?」
「どっちかって言うと……まぁ、好きかな」
そよそよと揺れる木の葉。
沈黙が続いても、亜美となら大丈夫だった。
お互い何も言わなくても、全然気まずくなんてないし。
小さい頃からの紡いできた関係性は、僕たちをしっかり結びつける。
「それに、さ」
右手を固く握りしめた。ギリギリ、そんな音が聞こえてきそうなほど。
「勉強しないと医者になれないし」
余命1年の彼女は、ただ微笑んでいるだけだった。
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