「やめて! 来ないで! 嫌い、大嫌い! 馬鹿、今すぐ死ね!」
「だから、ちょっと待って……!」
「ふ、ふざけんな不潔! 隅田川にでも沈め!」
「ここ東京じゃないから隅田川はないんだけど!」
「えっと、あ……じゃあガンジス川! お浄めされてくればいい!」
「パスポート持ってないし。ていうか、隅田川より遠くなってるし!」
よく分からない罵倒の仕方をする彼女は、全速力で大通りを突っ走る。
僕と言えば、彼女を連れ戻して落ち着かせるために、これまた全速力で追いかけていた。
ちなみに彼女は陸上部元エース。
まるでタイムを計っている最中のようなスピードが出ていた。
漫画のようなロマンス溢れる光景とは――――なんだろう、少し違う気がする。
「なんで浮気したのよ!」
「してない!」
「した!」
「してないってば!」
これが僕たちの日常である。このやり取りはすでに3回目だ。
どうして別れないのかと聞かれれば、迷わずこう答える。
そんな彼女が好きだから。
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