バスルームから愛を込めて | ナノ
宿に着いて第一声、キラキラした目をした悟空ににっこりと笑いかけられた。
「三蔵、一緒にお風呂入ろう」
「………は?」




バスルームから愛を込めて


「嫌だ」
「何でだよーいーじゃん!たまには二人で入ろうぜー!」
「お前な…」

分かってんのか。じろりと睨んでも、悟空はどこ吹く風、さっそくマントを外してブーツを脱いでいる。
入る気満々。何が彼をそうさせるのか。三蔵は頭を抱えた。

「風呂は一人で入るモンだ」
「そんなことねーよ、カップルのコミュニケーションを取るにもピッタリって書いてあった」
「何にだ」
「る◯ぶの温泉特集に。」

バカが。喉元まで出かかって、三蔵はそれを飲み込んだ。
はた、と考える。カップルのコミュニケーション。最近野営続きで、暫くいたしていない。
ということは、悟空からのそういうお誘いかもしれない。据え膳食わぬは男のナントカ。
そこまで考えると、何だかその気になってきた。元々そっちの欲は薄いが無い訳ではない。身体を重ねるのは無条件で気持ちいいし、宿ならば後処理にも困らない。
そうと決まれば答えは一つだ。

「しかたねぇ。入ってやる」
「やーりぃ♪早速風呂溜めてくるな!」

満面の笑みでパタパタと風呂へと走っていく悟空の背を見送りながら、なかなかオトナになったもんだ、と三蔵は独りごちた。
程なくして風呂が溜まったと悟空が呼びに来た。
風邪を引かないようにと、下着と着替えを出させて二人で風呂へと向かう。嬉しそうな悟空を見て、不思議と満足してしまう。
脱衣所に着くとさっさと衣服を脱いでしまう。それに悟空も続いた。

「…なかなか広いな」
「な。珍しいよなー。」

カラカラとガラスの引き戸を引くと、ちょうど二人で入れるくらいの広さのバスルームになっていた。
湯船もいままでの宿屋と比べると格段に広い。これなら男二人で入ったとしても窮屈ではないだろう。
二人でざっと身体を流し、ちょうど良い温度の湯船へと浸かる。

「気持ちいー!三蔵、気持ち良くね?」
「…ああ。」

これなら文句はない。頭を風呂の淵に持たれさせ、目を閉じた。
久しぶりの風呂に、自然と長いため息が出てしまう。
悟空は何かガサガサと袋を開けていた。

「…何してる?」
「ん?なんか入浴剤あったから入れようかなって。」
「そんなのどこにあった?」
「洗面所に最初に置いてあったよ?」

サラサラと入浴剤を入れると、程なくして風呂の湯は白乳色に変わった。色とともに湯触りまで変わったようで、少しまったりした湯になった。

「…なんかやらしいなー…これ」
「そんなこと考えるてめぇがやらしいだろ」

いやいや先ほど考えていたことの方がよっぽどやらしいだろ、というツッコミはさておき、悟空は非常に満足したようで、湯船の湯をすくったり落としたりして楽しんでいる。

「…悟空、」
「なに?」
「コミュニケーションとやらはどうした」
「あー、そうだった!三蔵マッサージしてやるよ、こっち来て」

マッサージ?何だか嫌な予感がする。そうは思いながらも、悟空が示した場所へと移動した。
悟空の足の間に腰をおろして、悟空の胸へと頭を預ける。…なんともいえない。

「よーし、そしたらマッサージするぞ。」
「強くすんなよ」

三蔵の肩をゆっくり揉んでいく。これはなかなか気持ちいい。目を閉じて暫くされるがままになっていたが、徐に悟空が口を開いた。

「この前な、三蔵どっか行っただろ」
「…」
「あの時すげぇ寂しかった。ずっと三蔵の事考えてた。」
「…」
「もう、勝手にどっか行くなよな…絶対。マジで。」

そのまま悟空は三蔵を後ろから抱きしめた。素肌は気持ちをダイレクトに伝える。抱きしめられているのに、縋られているような。どうしようもない寂しさと辛さが流れ込んでくるような。

「悟空」
「絶対だかんな。」

キツく抱きしめられると、何とも言えない。

「分かった。分かったからそろそろ離せ」
「ん…」

のろのろと手を離す悟空の手をさっと繋ぎとめて、三蔵は悟空へと向き直る。目線を合わせると、心なしか悟空の目は涙で濡れていた。
諭すように、解るようにゆっくり悟空へと囁く。

「どこも行かねぇ。だからお前もどこにも行くな」
「…うん」

そのまま唇を合わせると、悟空はすぐに息が上がった。
吐息を分けるように角度を変えて何度も唇を貪る。すっかり頬と口内が赤く染まった悟空は、溶けた蜂蜜のような目で三蔵を見つめて、このままして、と甘く告げた。


end

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