ハリー12 | ナノ
人生は小説より奇なり。

【Harry go round】


「ぅぎゃあああぁぁ!!」

朝の爽やかな一時は、大絶叫によって一気に幕を閉じた。
此処は慶雲院。東方随一として名を知らしめている。
その寺院の一角からこの世のものとは思えない絶叫が響いた。
その部屋から大声が響くのは寺の僧達にとっては暗黙の了解だったが、如何せん、今朝の大絶叫はただ事ではない。
せわしなく走り回る僧達はその部屋への偵察を試みたが、その部屋は超傲慢最高僧…基い、この寺院の最高僧、三蔵法師の私室であった。
無断で入れば、間違いなく強烈な一瞥と怒声が来訪者を迎えるだろう。
まして今は早朝。寝起きが悪い、と評判な三蔵だが虫の居所が悪ければ間違いなく銃弾を浴びせてくる。
しかし今はそんな事を言っている場合ではない。先程の大絶叫は三蔵の身に何かあったと考えても過言ではない筈。
恐怖の象徴であるそのドアのノブを、意を決した僧が回した。
「さんぞ!起きろってば!なぁ!!大変なんだよう!!」
少し開いた隙間から可憐な声が響く。深く深呼吸した僧は、そぅっと中を覗き見た。
手前に机。すぐ傍には何本かのクレヨンが転がっている。そしてその奥には大きすぎる程の寝台。朝陽の眩しい部屋の中で三蔵の連れ帰った子供がチョロチョロとせわしなく走り回っていた。その姿から察するに三蔵は未だに寝台の中なのだろう。現に寝台の隅では布団の合間から見事な金糸が零れ出し、朝陽を浴びて輝いている。
…どうもおかしい。
これだけならば、いつもと変わらない日常の風景である。大絶叫するような異変は何一つ無い。眉を顰めた僧は、子供が振り返った事により更に驚愕する事となる。
何かに怯えたような大きな金晴眼、サラサラと長い大地色の髪。細い腰も肩もいつもと変わらない。
いつもと変わらない…
大きな、胸。
「!!??」
あまりの衝撃に僧は思い切り腰を抜かして、ドアの外でへたり込む。
胸!?てっきり男だとばかり思っていたのに…
色々な思考が絡まる中、部屋からはひときわ大きな声が紡がれた。
「起きろよ三蔵!!俺、俺女に…女になっちゃった!」






誰か、助けて下さい。



【Harry go round 2】

ああそうだ、冷静に思い出そう。
昨日5食ちゃんと食べて、それでも足りなくてカップメン食ったっけ…じゃなくて!
昨日三蔵が遊んでくれなくて、寂しくて寝台に大きな毛虫を入れたっけ…そうでもなくて!!
俺は昨日三蔵と…えっと…風呂入って…そのまま…

「……」

かあっと頬を赤く染める悟空。これ程まで混乱しているのにも関わらず自分の体の感覚が現実逃避を許してくれない。
重みを感じる胸。あるはずなのに無い下肢の感覚。
意を決した悟空はそっと自分のシャツをめくってみた。
普段はまっ平らの自分の胸にはあろう事か豊満な乳房が2つ実っている。

「……」

ふらっと目眩を感じた悟空はふるふると頭を横に3回振った。もうこの状況は自分の頭の許容範囲を越えている。
冷静になろう。
冷静になってとりあえず三蔵に相談しよう。
そう思うことで降りかかる不安を一掃した悟空は未だに寝台で睡眠を貪る三蔵に手をかけた。

「三蔵!」
「……」

うっすらと眼を開けた三蔵は低く唸ってまたその眼を閉じた。敵は手強そうだ。

「な、三蔵ってば!」「…うるせぇ」

昨日は遅かったんだ、と声にならない声で呟いた三蔵はしっかりと頭から布団を被った。

…一体この男は何を考えているのか。

この事態に未だ覚醒しない三蔵についに悟空は切れた。
布団の端をしっかり握ると勢いよく引っ張った。

「起きろぉぉ!!」
「…んだよ」

布団の温かさを奪われた三蔵は仕方なくゆっくりと瞼を開けた。
ふん、と鼻息荒く布団を放り投げた悟空はゆっくりと三蔵の前に腰を下ろす。
本来三蔵は人に起こされる事を極端に嫌う。
それが例え悟空に起こされても眠いもんは眠い、と不機嫌オーラを纏った。
頭をボリボリ描く三蔵を見、悟空
はおもむろに自分のシャツを脱ぎだした。

見慣れた悟空の裸。首筋や鎖骨には夕べ自分が付けたのであろう鬱血痕が赤々と散っている。その下、普段ならばまっ平らな筈の胸には…豊満に実る乳房。


…乳房?


「…おまっ…お前!?」

「お、俺、女になっちゃったみたい。」

悟空のトドメの一言に三蔵は寝台に倒れ込んだ。


続く。





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