安息の地 | ナノ
そこは匂いといい固さといい、なんとも居心地が良かった。
ともすればそこから産まれ落ちたんじゃないかと、悟空はこっそり思ったほどだ。

それ程居心地がいいのだ、そこは。

三蔵の二の腕に頭を預け、かたく抱き締められて眠りにつく。
規則的な三蔵の寝息は、悟空の逆毛をフワフワと揺らした。それさえひどく心地良い。
その見た目よりずっと固い胸板は、悟空の全てを守ってやる、とでも言わんばかりに悟空に安心をもたらした。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


夜半、悟空は目を覚ました。

嫌な夢を見た。
ただでさえ暑い気温に、体中のじっとりした汗は不快感がなお一層増した。
かといって着替えるのも面倒くさい。
着替えなどしたら余計に目が冴えてしまいそうだ。
ちらりとサイドボードに目をやると時刻は4:23と無機質な緑色の表示があった。

―――嫌な夢だった。

そう、本当に嫌な夢だ。

よりによって、あんな――――…

沢山の花と、転がる死体と、いっぱいの血。
その中で自分は笑っていた。
狂い咲いた花は血を浴びて揺れていた。
その中にひとつ、ああ確かにあった。
金色の、髪と紫の目。



「―――…、」


ゴロリと寝返りを打つ。なんて夢だ。なんて夢だ。
そんなに自分は狂っていくのだろうか、他の誰でもない、彼を殺す程。

「……、」

なんて夢だ。なんて夢だ。なんて…

「…おい」
「あ、三蔵、起きたの」

かすれた低いテノールに、悟空は不覚にも安心した。
顔を上げると、月光を淡く跳ね返している金糸と紫闇。
良かった、ここにいる。
三蔵はひどく怪訝そうな顔でこれ以上ないくらい不機嫌に呟いた。

「起きちゃ悪ぃか。どっかの馬鹿猿がうるさくて目が覚めたんだよ」
「あ―…、ん、悪い」
「悪いと思うなら今すぐ寝ろ。目を瞑れ。」
「なんだそれ」

くは、悟空はたまらなくなって息を吐き出した。
恐れていた血の匂いは全くしなかった。
また安心。触れ合う指先がただ心地良い。

「俺は朝早ぇんだよ。なんならてめぇも起きるか?―――…詳しく言えばあと37分後には起きなきゃならねぇ」
「冗談。なんで俺が」
「てめぇ、誰のせいで起こされたと思ってんだ、犯すぞ」
「も―本当勘弁。朝からねちっこい三蔵の相手なんかしたくねぇ」
「黙れ」

そう言うと、三蔵は徐に悟空を腕の中へと絡めとった。
密着する肌、掛かる吐息に三蔵の匂い。
世界で一番安心できる腕の中で今、悟空は静かに目を閉じた。
気持ちが暴かれる前にあえてそうした。

「なぁやっぱり今日さ、どこも行かずにここにいてよ」
「……、あと20分だけだ。それまでこうしててやる」
「ちぇ。」


(朝はまだ遠い、深い闇の中、あなたの腕のなかだけが僕の居場所なのです)






あ:安心・安息の地

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