キス | ナノ
三蔵は優しい。
きっと八戒や悟浄や寺の坊主達が聞いたら全員「はぁ?」って聞き返すだろうけど、でもやっぱり三蔵は俺に優しい。
正確に言えば俺だけに優しい。

「さ―んぞっ」

執務室の外から声を掛けてみた。
三蔵はぴくりとも動かない。動いているのは三蔵の持つ筆だけ。
きっと流暢な字を紡いでいるんだろう。三蔵の字は三蔵にそっくりで飾り気がなくて美しい。

「さんぞっ」

焦れて俺はまた三蔵に声を掛ける。
やっと三蔵は筆を置いてこっちを向いてくれた。
いつもと変わらない、綺麗な目、それから顔。

「なんだ」
「用はねぇんだけど、ただ呼んでみた。」

はぁ。三蔵が溜め息ついた。声に出さなかったら俺が気付いてないとでも思ってるのかな。
三蔵ってなんていうか周りに無頓着。

「用がねぇなら呼ぶな」
「あ―、うそうそ、用あったよ!」

そう言って俺は窓から乗り出して三蔵を手招きした。
怪訝そうな顔で、しかし一歩ずつ三蔵はこっちにやってくる。
真ん前に来たとこで三蔵は俺へ憮然と声を落とす。

「なんだ」
「もうちょい近くに来て」
「…」

めんどくせぇ。三蔵ってば今絶対そう思ってる。バレバレ。
俺は精一杯背伸びして三蔵へと顔を近付けた。

「仕事してるときの三蔵、かっこいい。すっげぇしたくなった」

呆然とする三蔵の頬にチュッとキスして、俺は三蔵に背を向けて走り出した。

こんな悪戯も許してくれるぐらい、三蔵は優しい。
でも多分、今夜は激しくなると思う。自分で撒いた種だから全然構わないけど、いっぱいキスしたいなって、なんだかいまからちょっと楽しみだ。



き:キス




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