口付け | ナノ
どうやら眠ってしまったようだ。
派手に着飾った悟空の隣には、これまた着飾った三蔵。
二人はパートナーだった。あくまでも仕事上の。
大企業のトップたる三蔵と知り合ったのはとあるパーティーの最中で。
女嫌いと評判の彼へ、あろうことか声を掛けてしまったのだ。
その後の事は筆舌に尽くしがたい。
一瞬でキレた三蔵へ、こちらも応戦する形で言い争いになった。
その後で。

「俺に怯まずに言い返すような女は初めてだ。お前、俺が雇ってやるよ」
「は?」

なんとも高飛車な勧誘の後、悟空は正式に三蔵の元で働くことになった。

パーティーなどは基本的にはパートナーの同伴が必要だ。その穴埋めとして、悟空が雇われた。
ハッキリ言って三蔵に付きまとう女は大量に居た。なのに何故自分が?
そう尋ねると三蔵はニヤリと笑ってこう言った。

「媚びる女は視界に入れたくねぇ。香水臭いのも頭が痛くなる。お前は俺に媚びねぇし、香水は付けないみたいだからな。」

そんなに毎日毎日パーティーなんか無い、と思ってタカを括っていたが、悟空の意思に反してパーティーの他に、食事、接待など様々な場所へ三蔵は悟空を伴った。


…ああ、疲れているな。
件のパーティーの帰り、三蔵の車の中。
珍しく三蔵が深くシートへと凭れていると思ったら、寝息を立てていた。
伏せられた目の睫、一本一本数えられる程長い。その睫の下、うっすらと隈ができている。
最近は大きなプロジェクトを抱えていて、三蔵が忙しいことは分かりきっていた。
多分睡眠だってそんなにしっかりとっていない。
いつだか噂で、養父が遺した大きな家に一人で住んでいると聞いた事がある。きっと食事だってすごく適当に済ましているに違いない。
ストイックなまでに仕事に打ち込むのだ、彼は。

起こしたくない、疲れているなら寝てほしい。
だが、こんなに無防備な三蔵を前にして、悟空は好奇心を抑えることができなかった。
態度と口が悪いが、三蔵は美貌だ。悟空は三蔵の顔が好きだった。
その美しい造型を近くで見るチャンスなんて、果たしてあと何度あるだろう?
意を決して、悟空は三蔵へと近付いた。
起こさないように、音を立てないように慎重に。

ついに三蔵の近くまで顔を寄せて、悟空は初めて気がついた。
三蔵は眠っていなかった。

その証拠に、三蔵は直ぐに目を開けて、仕返しとばかりに悟空へ顔を寄せたのだ。


「人の寝込みを襲うなんざやらしい女だな」
「寝込んでねぇじゃん卑怯者!!三蔵のバカ!」
「うるせぇ、お前」

ゆっくりと三蔵の口唇が悟空のそれへと重なる。
暫く触れ合った後、真っ赤になった悟空が小さく「…騙された」と呟いた。
それから、車は静かに走り出した。




―――本気でアイ、してる?



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