本日 | ナノ
その高校に決めたのは、図書館が気に入ったからだ。
高校の一つの売りであるその図書館は、校舎から独立して建っていた。
70年代後半の建築物に手を加えたというその図書館は、一見小さな洋館だ。
周りには桜やイチョウの木が植えてあり、一年を通して彩られていた。
そして今日も悟空は図書館へと足を運ぶ。
重い扉を開けると雪を払いながら中へと進んだ。
しんとした図書館。
静けさが教会のようだ。
冬の凛とした空気が更にここを清めたかのようで、悟空は詰めていた息を吐いた。
「寒…」
この図書館には暖房器具が極端に少ない。
暖まるのもそれなりにかかる。寒さを覚悟して厚着してきた悟空は、建物と同じくレトロなストーブに火をつけた。
それからマフラーを巻きなおして本の返却口へと向かう。
「…あれ?」
本棚の間をチェックしながら進むと、洋館にただ一つある丸いステンドグラスの下に何かキラキラしたものが倒れていた。
よく見ると髪の毛のような…え、髪の毛?

「え、ちょっと!アンタ、大丈夫?」
青白い顔の彼を見て悟空も青ざめながら揺さぶった。まさかこんな所で昼寝だろうか。
「おいってば、なぁ、大丈夫か?」
パチリと眼が開く。びっくりするぐらい綺麗な眼の色だ。今気付いたが相当かっこいい。
「良かったぁ、生きてた…」
「………」
「アンタこんなとこで寝てんなよな、死んでるかと思ったよ。あ―びっくりした。ストーブ着けたからあっち行こうぜ」
そう言うと、彼はにっこり…というより、ニヤリと笑い。
「わ!」
見とれた悟空は腕を引かれ、唇を合わされた。一瞬唇を舐められると、ゆったりと放される。
悟空はといえば、放心状態だ。そんな悟空を見て、彼は悪態をついた。
「ひでぇ顔」
「…………な、」
「じゃあな、」
「…あ、待てよ!」
きびすを返す彼の腕を慌てて掴む。
「何だよ」
「何だよじゃね―よ!バカじゃね―の?なんでキス…すんだよ!?」
「……教えねぇ」
「じゃあ名前教えろ、慰謝料請求してやる!」
鼻息荒く告げると、彼は悟空へと向き直る。
「3―Dの玄奘三蔵」
「玄奘三蔵だな!覚えたからな!」
「お前は?」
「お前って言うな!いきなりキスするやつなんかに教えてやらね―!」
「そうか」
あっさりと言うと、三蔵は今度こそ悟空に背中を向けた。
しかし本棚を曲がる直前に。
「1―Bの孫悟空、…放課後はここにいるから。」
三蔵の背中に声を投げかけてしまった。
三蔵は微動だにせず図書館を出たようだ。扉を開ける重い音がする。
張り詰めていた糸が切れ、悟空はズルズルとその場にへたり込んだ。
まだ感触が残る唇に指を当てる。
「ちくしょ…」
しばらく忘れられそうになかった。





end
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