明日こそ美しいですような | ナノ
まず第一印象が最悪だった。
初対面でイキナリ仏頂面で一言、「猿だな」ときたもんだ。
ありえなくね。普通。

「コピー。」
「…はい」
書類の束を渡された俺はずっしりとしたそれを受け取った。
うえ。これ一体何枚あんだよ。
「午後からの会議で配布する資料だ。付箋してあるヤツは50部、それ以外は80部」
「…はい。終わったら、」
「第3会議室…いや、俺のとこに持ってこい。」
「…はい」
目の前のパソコンから一時も目を離さずにその仏頂面―――玄奘さんはサラリと言ってのけた。
眼鏡の奥の紫の目はパソコンに打ち込んでいる文字を追って忙しなく上下している。
スーツから伸びる手の細い指も同じように忙しなくキーボードの上を踊っている。
たったそれだけの動作なのに、男の俺から見ても彼の姿形は目眩がしそうな程決まっていた。
目の前の派遣の女の子に至っては玄奘さんを見つめて仕事が手についていない。
あ―あ、あと30秒も同じことしてたら見とれてる男にひどく怒鳴られるぞ。

「仕事をする気がないなら今すぐ帰れ。」

ほらみたことか。
女の子は真っ赤になって素早く机の上の台帳に目を落としている。
他人にも自分にも厳しい、今時カビが生えそうなぐらいストイックな人、それがこの人だ。
目だけはすんげぇ綺麗なのにな、と俺はコピーをとりつつ一人ごちた。

―――初めて出会ったのは入社後、この課に研修に来たときだった。
緊張でガチガチだった俺は舌がもたついて「孫悟空です、よろしくお願いします」の言葉さえ上手くいえなかった。
するとそれに目を丸くした玄奘さんは一言「猿だな」と言ってのけた。
「猿じゃねぇし!つ―かアンタ綺麗すぎ!」と言い返した後で、俺は目の前の人が上司だと気付いたんだ。テンパってるとよく分かんなくなるよな。アレになってた。今思い出してもマジで恥ずかしい。
でも玄奘さんは意外に怒ったり呆れたりしなかった。あれにはびっくりした。でもその後の空気の重いことといったら!
この課に配属される辞令が出たとき俺は本気で神様を呪ったね。つ―か神様は居ないと悟った。

そんなことをウダウダ考えていたら、さっき玄奘さんから渡された書類の中にメモが挟まっていた。
やば、個人情報とかじゃないよな。最近超厳しいんだから!そんな思いとは裏腹に、メモには綺麗な字で「次の日曜日花火大会に付き合え。090-XXXX-XXXX」とだけ書いてあった。
――――――ウソ。
勢いよく玄奘さんを振り返ると、しれっと仕事に没頭していた。
全く、仕事が出来る男はアプローチが下手くそだ。
付き合ってやろうかな、しょーがねぇから。そう思いながら、俺はメモを胸ポケットへとしまった。







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