君が僕を謳う | ナノ
そこにいるのは紛れもなく幽霊と呼ばれるモノだった。

君が僕を謳う


仕事から疲れて帰ってきたら、自分の部屋にいる筈もないモノがいた。
茶色い髪に黄色い目の子供。最近めっきり肌寒くなってきたっていうのにTシャツにGパン、おまけに足がねぇ。
完璧に幽霊だった。
こいつには見覚えがある。
確か、今朝通勤途中の横断歩道で生けてあった花の横に立っていた子供。
信号待ちをしていた時に偶然目が合った。印象的な目にまずハッとした。
それからソイツに足がないのに気付いた。
俺は自慢じゃないが『みえる人』だ。
こういう奴には関わらないのが一番だと今までの経験上分かっている。
――――が。

「聞きたいことは山ほどあるんだが」
「何?何でも聞いてよ、時間なら腐るほどあるんだから」
「まず一つ、お前は何故俺の部屋にいる。」
「俺、あんたの守護霊になることに決めた!だってすげ―綺麗なんだもん!」

目の前の子供(幽霊)はこれ以上ないくらいにニカッと笑ってみせた。
対して俺は痛みが出たこめかみを押さえる。
会話になってねぇ、前途多難すぎる。つ―かなんでついてきてやがるんだ。

「アホか。てめぇ地縛霊だろ―が。さっさと元いた場所に帰れ。」
「じばくれい…ってなんだ?」
「…お前、ここに来るまでどこにいた?」
「交差点の横断歩道だけど」
「ああ、そこからずっと動けなかっただろ」
「ううん、動けたよ。俺どこでも行けるんだ。今日たまたま横断歩道のトコいたんだけど…あ、そこな、俺の友達がいるんだ。」
「聞いてねぇ」

幽霊は少し堅い顔をした。
反対に俺はその五月蝿い口が塞がったと思うと清々した。
煙草に火を付けると、俺はいつもの仕草で窓をあける。
狭い1Kの部屋の中、細い煙が窓から糸をほどくように消えていく。
今夜は満月だった。
悪い夢なら早く覚めてくれ…。
そう思いながら部屋を見ると、しっかり幽霊がいた。
少し拗ねたような、そんな顔だ。

「…、聞いてなくてもいいもん。俺今日からさんぞ―の守護霊だからな。よろしく―。」
「はぁ!?何勝手なこと言ってやがる!!つ―か名前!何で知ってんだ!」
「俺今朝からずっとさんぞ―の後ついてきたんだぜ?名前くらいちょろいよ。玄奘三蔵、独身彼女ナシ寂しい24歳サラリーマン」
「俺は特定の相手を作らねぇだけだ、勘違いすんな」
「うわ―。なんていうか女の敵?」
「つ―か話すりかえるんじゃねぇ。生憎守護霊なら間に合ってる。」

そう言いつつ俺は辺りを見回す。
…、いねぇ。

「いやいや、俺光明さんと替わってもらったからさ、もう居ねぇよ。今日から正式に俺がさんぞ―の守護霊だ!光明さんも『君ならOK!』って言ってた」
「はぁ!?何だと!?今すぐ呼び戻せ!」
「光明さんは今頃南国だよ。バリに骨休めに行くんだって。もうムリムリ」
「幽霊に骨なんかねぇだろ…」

俺が苦々しく煙草をもみ消すと、ソイツはまたニカッと笑う。
正直毒気を抜かれる。

「オイ」
「え?」
「俺の守護霊は半端じゃ務まんねぇぞ。その辺分かってんのか?」
「おう!大丈夫!俺強ぇから!」

そのキラキラする金色の目も悪くないかもしれない。
そう思ってきた。

「あと一つ」
「?」
「てめぇの名前教えろ。俺の守護霊やるんだろ―が」
「おう!俺悟空。よろしくな、さんぞ―。さんぞ―が死ぬまできっちり守るからな!」
「縁起わりぃこと言うんじゃねぇ!!」
スパ―ン!
俺のハリセンは大きく宙を掻き目標をすり抜けて床を盛大に叩いた。
「ばっかだな―さんぞ―、俺に触れるわけね―じゃん」
いつか絶対殴ってやる。
そう心に決めた。



―――――――――


幽霊に押しかけ女房される三蔵。
つかなんつ―かまとまらない…
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