4 | ナノ
はぁ、はぁ。
ただでさえクソ暑いのに、俺は一気にダッシュしたせいで体中に汗をかいて炎天下に立ち尽くしていた。

あれから俺はばあちゃん家を飛び出した。

「――――…んぞ」

ぽつりと呟いた空の口。涙が流れた、伏せられた目の睫毛。

俺が三蔵に嫌がらせしたせいで二人はケンカをしてるのかもしれない。
汗だくのTシャツを握りしめて俺はしゃがんだ。セミの声が遠くに聞こえる。

悟空が幸せになればいいと思ってた。
悟空が笑うその横に立つべきなのは俺じゃない。
誰かが立つべきその位置に現在いる三蔵を、俺は認めていなかった。
認めていない…否、認めたくない、だ。

三蔵はもともと俺達が通っていた塾で一緒になった。
2こ上で、教室が一緒になることはなかったけど、三蔵はあの容姿で目立っていたから存在は知っていた。
そんな三蔵を悟空は一目惚れしたんだ。
―――――…そっか。
俺が気に入らないのはここか。
悟空が三蔵を好きだって所だ。
だったらやっぱりどうしたって三蔵を好きになれる筈はなかった。
でも。
だからって悟空の幸せを崩すんだったら、それは結果的には本末転倒だ。
悟空が幸せに笑うためにはあの仏頂面がどうしても必要だ。
俺じゃあ、無理。

俺は後ろのポケットからケータイを取り出した。
もしもの時用に空のケータイから盗んでおいた三蔵のケータイ番号を電話帳から検索する。
あった。【三蔵(バカ)】と登録してある。
俺は二度深呼吸すると通話ボタンを押した。
…プップップップップ…1コール、2コール。
あー三蔵はauなんだな―。ケータイ。

…3コール、4コール。
なんて言おう。散々引っ掻きまわしといて今更謝るとか俺かなりバカ丸出しじゃん。
…謝る?何で謝んなきゃいけないんだ?
まぁ謝るのは却下。俺は悪いけど悪くない。

…5コール、6コール、7コール…

…出ろよ三蔵。せっかく俺がかけてやってるのに。

…8コール

「…もしもし」

出やがった!
「もしもし三蔵?今何してんの?」
「…誰だ?」
「……聖」
「何だ。何か用か?」
「アンタ、空とケンカしてんだろ?」
俺のせいで。と心の中で付け足した。

「それがどうした。お前になんか関係あるのか?」
「空、泣いてた」
「……」

三蔵が声を飲み込んだのが分かった。

「だから…その、俺から引っ掻き回しといてアレだけど、空に電話してやって。できれば今からすぐに。」
「……」

無言が、困惑から来ていることが分かる。
そりゃ今まで散々嫌がらせしてきた俺が急にこんな電話してんだもん、そりゃびっくりするよな。

「空の困ったとことか泣いてるとことか、俺はそんなん見たくない。」
「お前、」
「で、空を幸せにするのって三蔵以外にいないんだよ。…だから、」

俺はもう一度深呼吸した。一瞬、目の奥が熱くなった。

「空を幸せにして。誰より幸せにして。そしたらもう邪魔しない」
「…分かった」

ボロボロと涙が後から後から出てきた。
あ―もう最悪だ。
涙を手のひらで拭いながら俺は終話ボタンを押した。
忘れていた暑さが俺を包む。
セミの声もまた聞こえてきた。

「幸せにしねぇと承知しねぇからな…」

見上げた空はすんごく青くて、イヤに目に染みてまた涙が出た。


(誰よりも幸せになって、そして変わらぬ笑顔を俺に見せて。それだけで俺は100年幸せだから。)




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