シャドーリンク | ナノ
誰かに縋りたいなら
僕に縋ればいい。
誰かに寄りかかりたいなら
僕に寄りかかればいい。

【shadow link】

ぴちゃり ぴちゃり。
真水が岩肌に落ちる刹那。
弾けて混ざる音は、この薄暗い洞窟に反響して、さらにその旋律を高める。
苔むした水溜まりの近くには柔らかな光が集まって綺麗な曲線を描いていた。
その光の中。
薄暗い光の中に、俺は居る。
たった独りで。
鎖で痛む右足は、それでも何とか俺が存在している確かな証になっていたし、眩い光はこの洞窟の中には届かなかったから俺の眼は焼け焦げる事もなかった。
ただ、退屈。
砂漠のような時間。
永遠に続く時間。
自分が何者かさえ既に覚えていなかった。
名前も容姿も。
痛む頭の中に既に言葉などは存在していなかった。
だけど、
伸びる髪は確実に目の前まで降りていて、色だけが唯一分かる。
金色。
多分、光の色と似ている色。
この灰色の空間で、ただ一つだけ鮮明に映る色。
諫められた手では、それに触ることも出来なかったけれど。
揺れて微かな光を放つ、その色が俺は好きだった。
こんな光を俺は知っている。
確実に覚えている訳ではなかった。
霞のよような記憶の中で酷く鮮明に光る、円やかな金色。
鮮やかに笑うそれが、俺は好きだった。
確かに守りたかった。
守りたかった。
――守れなかった。
誰か。
『―――くう。』
口唇から滑り落ちた言葉は、岩肌に跳ね返って空虚へと落ちていった。
「…ねぇ、誰か居るの?」
突然の声に、俺は頭を上げた。
緩やかに落ちる前髪を払いながら、声の先に眼をやれば、あまりの光に眼が包まれ。
『…誰だ、てめぇは』
ゆっくりと声を紡げば、視線の先の人影は肩を揺らした。
さらりと靡く、茶色の髪は何故だか酷く懐かしく。
眩い光に眼を細め、微かに震えながらもう一度声を上げる。
『…誰だ』
「俺は悟空だよ。金色のおにーさん」
『…悟、空?』
茶色の髪の子供の形容し難い、金色の瞳が柔らかに細められた。









「いいよ、三蔵」

赤い。赤い。
舌で味わって初めて気がつく。

「もう死んでる」

これは、血だ。

【shadow link】

俺は自分の事を覚えていない。
気がついた時からあの暗闇に縛り付けられていた。
微かに残る金色の残像。守りたかった“誰か”の残像。
自分を知る術は何もないあの場所で、自分の記憶を必死に辿った。
彼処から連れ出された今となっても、その金色を時々は思い出す。そうだ、こいつの眼を見る瞬間だ。
「ご苦労様。随分食い散らかしたね…久々だったから?」
「…」
目の前で鮮やかに笑ってみせるソイツは、自然な仕草で俺の口唇を拭った。
俺は、人間じゃない。
この世界では召喚獣と呼ばれる分類で、姿形は人間のものであっても属する部類が基本的に違う。
俺を解き放った後で、ソイツは言った。
―――力を、貸して欲しい。
今思えば、首を縦に振ったのは珍しい金色の眼に魅入られた為か。召喚獣を操る事が出来るのは、代々金色の眼を持つ者だけだ、と後からソイツに聞いた。
告げられて気付いた。
俺のあの記憶の残骸は、もしかしたら過去の召喚師の眼かも知れない。
「腹一杯になった?」
細切れのようになった人間の体を無情にも踏みつけながら、ソイツは言う。
「…、まだ足りねぇ」
「そっか…」
ぐしゃり。
血を纏った肉を、踏みつける音が響く。少しだけ眼を伏せたソイツは、ゆっくりと右手を俺の口元へと運んだ。
―――血を。
解き放たれた時に契約した内容。
悟空は三蔵に力を、三蔵は悟空に血をそれぞれ求めた。
術者との契約は絶対だ。
薄い皮膚を貫いて、三蔵の牙が侵入する。
固い牙が血管を切り裂いて、やがて吹き出す温かい血を飲み込み。
「…っ…」
傷口を舌先でなぶれば、ヒュッと悟空が息を詰める。
「…痛いか」
「…痛いよ」
「、…美味い。」
「そぉ…」
柔らかい血の味。
一瞬だけ慰めるように優しく舌を這わせれば、次の瞬間にくしゃりと悟空が笑った。

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