ディエゴ | ナノ
「すみません玄奘さん、指切ったんで絆創膏貰えますか?」
血が滴る指を押さえながら、俺は事務所の扉を開けた。
指先は、大して深くもない傷だ。
でも俺は大袈裟に顔を歪めてしまう。
だって、ここの事務所の事務員さんは…俺の憧れ、だからだ。
去年産休に入る人の代わりに入社した、玄奘三蔵さん。
深い紫色の眼が凄く綺麗で…あ、勿論顔も凄く綺麗なんだけど。
あまりに綺麗な人だったから、現場のオッサン達は初めは女の子だって思ってたらしい。
かく言う俺も、こんなに綺麗な人を見るのは初めてだったから、凄く驚いた奴の一人だったんだけど。
とにかくそんなに綺麗な人だったんで、最初はみんなあれやこれや声を掛けたもんだけど…

「孫か。てめぇまた怪我しやがって、これで何度目だ?ぁあ?」

…そう。この美人なオニーサンは超絶口が悪い訳で。
普通新人だったら下出に出るじゃん?
玄奘さんはそれが全くといっていい程無し。
まぁ、その凶悪な口の悪さで口説く人は段々減ってきたからそれはそれでいいんだけどね。

「…スミマセン…」
「…ちっ、お前はいっつもよそ見ばっかしてっから手なんか切んだよ」

手早く救急箱から絆創膏を取り出してくれて、玄奘さんは俺の指先にクルクルと上手に巻いてくれた。
俺は手当てを受けてる最中、…不謹慎ながら見とれた。
近くで見ると益々綺麗だ。
色は白いし睫は長いし…ああ、神様はよっぽど端正にこの人を作ったんだなあってぼんやり考えていたら。
「…孫、今度どっかいくか?」
「…ぇ?」
びっくりして玄奘さんを見れば、そのアメジストの眼とぶつかった。
どこまでも澄んでてどこまでも深い、紫色。
慌てて俺は、視線を下に向ける。
やべー、顔赤くなっちゃった!
「あ…ああ、現場のみんなと一緒にですよね?うん、行きたいで…」
「違ぇよ、アホ猿」
ピッと絆創膏の後ろの紙を引っ張って、残りの粘着層を貼り付けながら、玄奘さんは俺に告げた。
「二人で、だ」
「――――…ぇ」
ええええ!??
俺は心の中で悲鳴を上げた。
だって、あの玄奘さんが…俺に、二人でって。そう言ったから。
「考えておけよ?」
真っ赤な顔を上げれば、まるでからかうような眼と遭遇した。
そのままそっと近付かれて、口唇を塞がれたのはそれから五秒後の事。




end




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -