ある夜の会話、群青ハニー | ナノ
灼熱に身を焦がして白いシーツへと二人揃って倒れ込んだ。
一瞬遅れて、悟空の背へと伸ばした三蔵の手をいち早く掴んだ悟空は鼻を近付ける。
「あ、」
「なんだ」
「なんだろ、三蔵の体…なんか匂いがする」
思い切り気を殺がれた三蔵は苦く唇を歪ませた。それでも悟空は鼻を近付ける。クンクンと鼻を3回程鳴らして、それから鼻を手の甲へとずらしてもう一度。
「……何でもないなら放せ」
いい加減イライラしたんだろう。更に低くなった三蔵の声がシーツの間を縫う。
「や、なんか…錆?みたいな匂いする。」
「今日は団体で来たからな、一日中銃握ってたから匂いが移ったんだろ」
「や、銃の匂いじゃなくて、」
それなら俺判るもん、悟空はそう続けた。
じゃあ一体何なんだ。三蔵は思う。今日触った覚えがあるのは銃とジープのシートとゴールドカードと悟空だけだ。
いずれにしても錆の匂いを付けるものはどこにもない。
「なぁ、舐めてイイ?なんか味しそう。」
「咬むなよ猿」
「猿じゃねぇ!」
からかうような三蔵の言葉にムッとなりながらも悟空は三蔵の手へと舌を這わせた。
赤い舌が白い指先へ。それから爪を辿り、銃タコの出来た節々を経て甲へ至る。
「…んん、」
「なんか分かったか?」
「…わかんね、でもなんかさ…三蔵の体の中?から匂ってる気がする」
「体の中?血か?」
「いや、血じゃなくて…なんだろ」
「血じゃねぇなら他に思い付くもんがねぇ。」
それに何だ、体の中から匂うって。まさかと思うが体臭が錆臭くなったとでも言いたいのか。
「ひとつ思ったんだけど」
「何だ」
「もしかしてさ、三蔵の匂いじゃねぇの?三蔵って錆に近い匂いしてんじゃねぇの?」
「生憎そう言われた事はない」
「そ。別にいいけど」
ふむ。腑に落ちない顔をしていると三蔵がスッと顔を近付けてくる。
まるで三蔵から引力が発しているように、三蔵が近付く毎に悟空の瞼は下へと落ちていった。
「あ、」
「……今度は何だ」
「三蔵って磁石なんだ。」
「は?」
「俺を引き付ける磁石なんだ。だから錆みたいな匂いすんだ。」
「………」
ばぁか。
落とした口付けの中で三蔵は呟いた。
強ち間違ってねぇかもな、と。








今日も太陽がそこにいてくれるだけで僕等はずっとハッピー。

【群青ハニー】

座り心地は正直良くない。酷く耳障りにギィギィ鳴る椅子だ。大概組み立てる時にどこか噛み合わなかったんだろう。
それでもきっと無理矢理鉄の釘で打ち付けた筈だ。
斜め右、少し曲がっている。おまけにかなりグラつく。
おかげで重心がいつまでも定まらなくて、悟浄は持て余し気味に体を反らせた。
反対に悟空は上半身の殆どをテーブルの上へと預けている。
椅子から落ちることは確実に無い。名案だ。悟浄は独りごちて煙を吐き出した。
不思議な色を帯びた金色が、やけに光を増して煙を追いかける。

「悟浄はさ、タバコいつから吸い始めたんだ?」
「そーゆーことは良く覚えてねぇよ。」
「そんなモンなの?」

肯定するかのように椅子がギシリ。

「覚えてたってなーんの得にもならねぇし」
「そりゃそーだ」

はぁ。こちらは反対の意味での肯定の溜め息。
コラ、そんなに溜め息ばっかり吐いてると幸せが逃げるぞ。

「三蔵もさ」
不意に悟空が続けた。
「覚えてねぇって。体に悪いことは分かってるのにやめる事は絶対に無いし、」
「ニコチンのせいだろ。依存しちまってるんじゃねぇの?」
「うん。それに三蔵は、ほら、なんていうか」
「自虐的思考。」
「うん。そう、それ」

分かってんじゃん。悟空は眼だけで笑った。

「悟浄でさえ分かるんだな」
「ああ。」
「なのに何で自分で分からねぇのかな?」
「さぁな」
「あ、なんか悟浄の返事、三蔵っぽい」
「うへ、やめろ気持ち悪ぃ」
「そのうちハゲるぜ」

意地の悪い視線を悟浄へと渡して、それから悟空はなんとなくライターを持ち上げる。

「俺がもし人間だったらさ、」
「あ?」
「もし三蔵と同じ人間だったら、俺も絶対タバコ吸ってる。意地でも」
「…そりゃまた、何で?」
「悔しいじゃん、」

同じ種族で同じ嗜好品だったら、もしかしたら今よりもっと三蔵に近付けるかも知れないし。


「少しでも対等でいたいって、いつでも思ってるよ」
「………お前らのノロケはもう聞き飽きたっつーの。」

不機嫌そうな椅子の軋みを聞いて、悟空は更に綺麗に笑った。


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