緋凪の唄 | ナノ
そして僕等はこの場所で、終わることの無い唄を。





【緋凪の唄】





身体には未だ、灼熱が渦巻いている。
小さな身体に飽きる事もなく散々ぶちまけて、それでもこの醜態。
せめて熱だけでも冷まさせるようにと、肺の奥深く迄煙を吸い込んだ。
じっとりと汗ばんだ身体に染みカサカサと乾く。
雨が嫌いなのは、重いトラウマだけのせいではない。多分、きっと。


白いシーツがやけに目に染みると思ったら、その少し向こう、クシャクシャになった傍らから細い足が突き出している。
その露わになった膝裏には、赤い手の跡がくっきりと浮き出ていた。
丁度火傷の傷のようで、三蔵は密かに舌打ちをする。


――雨が、止んだね――

緩く上る煙の向こうで、静かに悟空が口を開いた。


――ね、熱は冷めた?

――ついでに身体の火も消えるといい。

苦々しくそう呟けば、これ以上無い程に苦しそうに顔を歪めた悟空がいた。





end









灼熱。そう例えるのが相応しい程、三蔵の身体は熱を孕んでいた。
普段カッチリと着ている法衣の下には、透き通らんばかりの白い肌。一見そんな熱など持っていなさそうな色素の薄い三蔵の肌は、雨が訪れるごとに身体に火を灯したような熱を持つのだ。
そう、雨。
三蔵は雨が嫌いだった。理由は悟空には判らない。
ただ雨が降れば、燻る熱を冷ますかの如くに三蔵は悟空を組み敷くのだ。
荒々しく、熱く優しく。
快感が悟空の身体にもたらされる頃には、三蔵の熱は悟空の体内へと注がれる。
今日もまさにそうだった。
眠りの淵から覚醒した二人が、柔らかい雨の音を聞いた瞬間に三蔵の身体は一緒にして熱を宿した。
熱い手のひらに翻弄されながら寝台へと身体を沈められ、そのまま今に至る。

――雨が、止んだね――
情事の終わりを告げる煙草の煙を遠くに感じながら、悟空は口を開いた。

――ね、熱は冷めた?――

窓口へと身体を預けて外を眺め続けた三蔵は、声に促されるように悟空を振り返った。
途端、苦々しく顔を歪める。恐らくは悟空の投げ出している足に付いた、自分の手のひらの跡を忌々しく思っているのだろう。
悟空にとってはこれ位、何でもなかった。刻まれた跡は、三蔵へと繋がる確かな証拠に他ならない。
悟空は思う。
だから三蔵が。三蔵が傷つかずに済むなら自分をどう扱ってくれてもいいんだよ?
だからどうか、傷つかないでと祈るばかりの悟空の耳に、寄りによって一番聞きたくない感傷的な言葉が聞こえてきた。

――ついでに身体の火も消えるといい――

煙草を灰皿へと擦り付けると、これ以上ないくらいに冷たい視線を三蔵は投げて寄越した。
その時、三蔵がどんなに傷ついた顔をしていたか三蔵自身は知らない。
ただ、三蔵の言葉に酷く顔を歪めた悟空を見つめていたから。
雨の匂いが充満する部屋で、シーツだけが白く切り取られたように鮮やかだった。

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再録です。
改めて見直すと本当に救いようのないような噺ばかり書いてるね私。
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